【プロ野球】現役引退の田中健二朗が振り返った「木塚敦志との死闘の日々」と「忘れられない2つのシーン」 (3ページ目)
「巨人ベンチから鈴木さんが出てくるのを見て、正直終わった......と思ったんですよ。絶対に走るじゃんって。けど、あの瞬間、僕は腹をくくったんですよ。盗塁されて、打たれてしまえばサヨナラ負けをしてチームのCS敗退が決まってしまう。ここはやれることをやろうって」
対する打者は阿部慎之助。田中は初球のスライダーを外すと、2球目はストレートをファウルされた。3球目を投げる前、ここで田中は初めて牽制を入れたが、鈴木は余裕を持って帰塁した。そしてもう一度、セットポジションに入ると、今度は長めに間をおいた。ヒリつく時間。ここで再び瞬時の牽制を入れると、体重を二塁側に移していた鈴木は塁に戻りきれずタッチアウト。ベイスターズファンの絶叫が東京ドームに響き渡った。
「牽制は得意じゃないんですけど、自分が持っている最大限を出して刺すことができました。自分で言うのも何ですけど、本当にビッグプレーだったと思います。あの牽制を覚えていてくれるファンの方々は多くて、今でもその話になることがあるので、そういう意味では皆さんの記憶に残るプレーができてよかったと思っています」
ちなみにこのプレーは、田中にとってプロ入り初の牽制刺だった。その後、田中は2イニングを無失点で抑え、勝利投手になっている。
【ルーキー時代の自分に声をかけられるとしたら】
マウンドでしか味わえない緊張感と快感。投手にとってこれ以上ない心弾む瞬間であるが、田中にはもうあまり時間は残されていない。9月27日の広島戦(ちゅ〜るスタジアム清水)で引退試合を行なう予定だ。
「寂しさはありますか」と尋ねると、田中は小さくうなずいた。
「本当に普段生活しているだけでは味わえない緊張感や勝負っていうのは、何物にも代えがたいものでしたし、欲を言えばもう一度、手に汗を握るというか、誰にも結果がわからない攻防みたいなものを経験したかった。思えば、あのなかでボールを投げるというのはすごく勇気がいることですし、それを長い間経験をさせてもらったのは本当にありがたかったですね」
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