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江川卓の圧倒的ピッチングの秘密を鹿取義隆が明かす「打者を見極める感覚が研ぎ澄まされていた」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 鹿取は「空白の一日」云々よりも、江川が高校時代から大学、そしてプロ入りするまで、ずっとマスコミの注目を浴び続けたことの大変さを感じていた。それが江川の宿命と言えばそれまでだが、どこに行ってもマスコミに追われ、自由時間など皆無に等しかった。だからこそ、マイペースにならざるを得なかったのだろうと、鹿取は思っていた。

【江川流のペース配分】

 それでいてピッチャーにおけるペース配分は、"江川流"としか思えない独特なものがある。

「江川さんはペース配分して投げるってよく言われますけど、ほかのピッチャーはそんなことできないですから。唯一セーブして投げられるのは、投手が打席に立った時くらい。でも、ピッチャーを抑えないと次が1番打者ですから、完全に抜くことはできない。バットを持っている限り、何が起こるかわからないですから。そう考えると、1番から9番まで力を抜いて投げるなんでできないですよ。

 たとえば、それぞれバッターにはそこに投げておけば抑える確率が高く、打たれたとしても長打になりにくいセーフティーゾーンというのがあるんです。そういうデータというのは試合前からあって、そこに対戦していくなかで感じるものを擦り合わせて投げるのですが、江川さんは打者を見極める感覚が研ぎ澄まされていたんだと思います。どんなにすごいピッチャーでも、プロの世界で力を抜いてストライクを取るなんてできないですから」

 現役時代、鹿取はこう江川に聞いたことがあった。

「江川さんはインハイを狙って投げないんですか?」

 すると江川は、淡々とした表情でこう返してきた。

「インハイを狙わなくても、いい高さに投げることができれば抑えられるから」

 鹿取は「そ、そうですよね」としか言葉が出てこなかった。とにかくほかの投手とは、発想がまったく違っていた。

 ピッチャーが打者と対戦する時、インハイとアウトローの対角線を攻めるのが基本だ。インハイに投げて打者の体を起こし、次にそこから最も遠いアウトローに投げて打ち取る。だが江川はインハイを狙わなくても、高めに投げておけば空振りが取れるという考えを持っていた。ストレートに相当な自信がないとできないが、規格外のピッチングスタイルであることは明白だ。

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