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江川卓を攻略して4点差を追いつき同点 直後、マウンドに上がった小松辰雄は野球人生で初めて足が震えた (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 小松の現役時のユニフォーム姿を見ると、下半身がパンパンなのがわかる。ダッシュやランニングで鍛え上げたのは一目瞭然だ。

 江川は先発した際、完投するためにペース配分を考えて投げていたというが、はたして小松はどうだったのだろうか。

「そんなこと考えたことないよね。あの人だからできた芸当だと思う。作新学院時代からペース配分を考えて投げていたと聞いたことがある。ランナーが得点圏にいったら、力を入れて抑えるといった感じで。何度も言うように、オレはピッチャーが相手の時は余計に力を入れて投げていたぐらいだから。ただ、馬力はあったんじゃないかな。中4日で、1試合に150から160球投げても平気だったから」

 小松はピッチャー特有の爪が割れたり、マメができたりすることはなかった。周りからは「あれだけ投げたのになんで(マメが)できないんだ? なんかやっているのか?」と冗談半分で言われたりしたが、小松は体質だと言って一笑に付していた。

【これで負けるわけにはいかんな】

 江川について中日の選手に取材をすると、どうしてもあの試合に触れずにはいられない。1982年9月28日ナゴヤ球場での中日対巨人。首位・巨人に2.5ゲーム差で2位の中日が、残り試合の関係でこの試合に勝てば逆マジックが点灯する天王山初戦。

 江川と三沢淳の先発で試合は、8回が終わって6対2と巨人の4点リード。楽勝ムードだと思われたゲームだったが、9回裏に中日が江川を攻略して同点に追いつき、延長10回裏に大島康徳のサヨナラ安打で中日が劇的勝利した伝説の試合。小松にとっても、特別かつ生涯初体験の試合となった。

「4点差で負けていたのに、9回に連打連打で点差が縮まっていった。あの時はまだ抑えをやっていて、『あれあれ?』と思いながら見ていたら『ピッチングやれ』って言われて、ブルペンに行って準備をしていた。そしたら中尾(孝義)さんのタイムリーで同点になり、『いくぞ』って言われてマウンドに上がったけど、さすがに足が震えたもんね。武者震いみたいな感じ。野球をやっていて、マウンドで足が震えたのはあの時だけ。『うわー、江川さんを打ち崩して同点になって、これで負けるわけにはいかんな』と思った。

 ウチが勝ったらマジックが出る試合だったんだよね。ツーアウト一、二塁のピンチは招いたけど、なんとか抑えて、これで負けがなくなったと思ってホッとしたよ。その裏、大島さんがセンター前ヒットを放ってサヨナラ勝ち。マジック12が点灯したんだよね。ほんと劇的な勝利だった。このシーズン最終戦の大洋戦で勝ったら優勝という大一番に先発して完投したけど、足は震えなかった。あの試合だけだよ」

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