ヤクルト奥川恭伸は960日勝利の陰で人知れず苦しんでいた 「どうやって投げたらいいんだろうって...」 (3ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya

 そして奥川は「なにより、イメージが全然湧かないんですよね」と苦笑いした。

「これが2年間のブランクなのかなって。ずっとその景色を見ていなかったので、イメージが湧かず、投げ方もわからないみたいな感じでした。ストライクゾーンを通すにはどうやって投げたらいいんだろうって......。そういう状態のなか、よく5回まで投げていたなと思います(笑)。逆に言えば、投球術みたいなものはしっかり身についているんだと思ったので、あとは自分の一つひとつのレベルを上げれば、まだまだいけるなという楽しみはあります」

 シーズン最終登板は、10月5日の広島戦(マツダ)だった。2番手として登板し、2回2/3を2失点(自責点0)で敗戦投手となるも「僕のなかではちょっと見えた試合でした」と言って続けた。

「最初に話したことと矛盾しますが、この日はシーズン最終戦だし、順位もほぼ決まっていたので、自分の試したいことをやりました。そのなかで『こうかな』というのがちょっとありました。知らない人が見たらスピードもそれほど出ていないし、球自体も来てないと思うんですけど、僕のなかでは2イニング目以降からボールの"イキ"が変わったというか、このボールを続けられたら捉えられても外野の頭を越えられることはそんなにないのかなと。そういうのが見えた感じでした。

 来年はみんなと同じスタートラインに立てるので楽しみですね。狭いなかで苦しんだことも自分の引き出しになりましたし、そのなかでもしっかり勝ちがついたのはいいことだと思うので、今年は引き出しが広がったということですかね(笑)」

【近藤弘樹への想い】

 9月の二軍戸田球場、近藤弘樹はチーム練習が始まる1時間前から、連日のように走り込んでいた。「いつ終わるかわからないので、体をつくっておこうと走っています。今は1週間がしんどいです。1日がしんどいです」と、近藤は大粒の汗を流しながら話した。

 奥川は前述で触れたように「復帰戦はリハビリ中にお世話になった方たちのためにも、勝利投手となって恩返しをしたかった」と話しているが、近藤もそのなかのひとりである。

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