【イップスの深層】
150キロ右腕・一二三慎太が
失った投球フォーム
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連載第6回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・一二三慎太(1)
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2010年のセンバツでは大会屈指の本格派として注目を集めてた一二三慎太 長い高校野球の歴史のなかで、かつてこんな選手がいただろうか?
甲子園春夏連続出場校のエース。それもプロスカウトも注目するような有望株が、春と夏でまるっきり違うフォームで投げたのだ。そして驚くべきことに、フォームを変えてわずか3カ月にして、その投手は夏の甲子園で準優勝まで上り詰める。
投手の名前は一二三慎太(ひふみ・しんた)という。彼がフォームを変えた理由は「イップス」だった。
肩が痛い――。
初めて感じる痛みだった。2010年の冬、東海大相模のエース・一二三慎太は、投げ込み中に右肩が抜けるような錯覚を起こした。
中学時代(大阪・ジュニアホークス)から故障の多かった一二三は、腰、ヒザ、ヒジとさまざまな部位を痛めてきた。しかし、この肩の痛みは異質だった。
「中学時代のケガはごまかして放れるレベルでした。でも、肩はホントにきついっすね。腕を回せなくなりますから。腕が上がらなくなって、ノースローにして休めて、また投げ始めたんですけど、痛みが取れませんでした」
ボールを握り、テイクバックをとるだけで痛い。ボールをリリースした直後にも激痛が走る。次第にリリースすることに恐怖感を覚え、腕に力が入らなくなる。力が入っていないのに、腕は振っている。体がフワフワとしていて、ピッチングをしている実感が湧かなくなった。
それまで一二三が大切にしていたのは、リリースの感触だった。肩からヒジ、ヒジから手首、手首から指先へと力が伝わり、リリースで「パチン!」と弾くような感触がある。それが一二三にとってのピッチングであり、野球をする上で最大の快感でもあった。しかし、肩を痛めてからその感触は味わえなくなってしまった。
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