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【イップスの深層】
150キロ右腕・一二三慎太が
失った投球フォーム (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

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 それでも、一二三は練習をやめなかった。投げなくてはならない理由があった。すでに出場を決めていた春のセンバツ大会を控えていたからだ。

「肩が痛くない腕の振りを探して、それで投げたのがセンバツでした」

 前年秋の明治神宮大会では準優勝。当然チームはセンバツの優勝候補に挙がっており、一二三自身も「大会ナンバーワン右腕」とメディアにもてはやされた。しかし、晴れの甲子園という大舞台で見せた一二三の投球は、前評判とはほど遠い内容だった。

 1回戦の自由ケ丘(福岡)戦。一二三は立ち上がりから抜け球が多く、いつも以上にシュート回転が目立った。それでも類まれな投球センスで5回までスコアボードに0を刻み続けたが、6回に1点を奪われ同点。8回には3点を許し、結局2対4で初戦敗退となった。一二三はこの登板を「ほとんど記憶がない」と振り返る。

「相手ではなく、僕自身の体との戦いでした。自分が投げている感じがしない。はっきり言って、クソおもんないですよ(笑)。甲子園前には『野球をやめて、大阪に帰ろうかな』と思ったくらいですから」

 驚くことに、一二三は右肩が痛いことをメディアはおろか、チームメイト、監督にすら伝えていなかった。当時、一二三はチームのエースであるだけでなく、キャプテンも務めていた。その責任感と「言うほどのことじゃない」という男としてのプライドが邪魔をした。一二三はたった一人で肩の痛みを抱えながら試行錯誤しなければならなかった。

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