江川卓との対決で掛布雅之が最も印象に残っている打席「一度だけ敬遠されているんだけど、あのストレートのすごさは忘れられない」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 掛布が言ったこの独特の表現こそが、江川のボールの真骨頂のように思えた。当たらないボールといえば、野茂英雄のフォーク、ダルビッシュ有のスライダー、西本聖のシュートなど、"魔球"のような変化球を投げる投手は何人もいた。つまり、江川のストレートも魔球レベルということか。だから半世紀が経っても、佐々木朗希のように160キロ以上を投げる投手が出てくるたびに、江川がフィーチャーされるのだ。

 では当時の阪神ベンチは、江川対策としてどんな指示を出していたのだろうか。

「『高めは振るな』の一点ですね。真っすぐとカーブしかないですから。ストレートをいかに見極められるか。高めを振ったらもう勝負できないですから。当時監督だった安藤(統男)さんがミーティングで『高めのストレートを打つな』と耳にタコができるほど聞かされたんですけど、ミーティングのあとに『おまえはその高めのストレートを打ちたいんだよな。おまえは振ってもいいぞ』と言うわけです。

 4番が打たなくても、ほかの選手が打てば勝てます。ただ、監督からわがままな勝負を許してもらった時こそ、チームの勝敗を背負った打席になるんですよね。監督は、江川というピッチャーのストレートに対して勝負をかけるアプローチの仕方を全面的に任せてくれる。なおさら重みを感じて打席に入るんです。だから特別なんですよ」

 江川との勝負が別格というのは、なにも男と男の真っ向勝負というわけではなく、チームの命運、監督の想いなどもすべて背負っていることから生まれている。それだけ江川という存在が偉大であるということだ。

【江川卓の野球人生初の敬遠】

 江川との通算対戦成績は、167打数48安打(打率.287)、14本塁打、33打点、21三振、18四死球。じつは、江川から一番ホームランを打っているのが掛布だ。185打席のうち、最も印象に残っている打席はどれかと聞くと、掛布は即答した。

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