ウグイス嬢と記者の雑談から生まれた「8時半の男」 宮田征典がブルペンに姿を現すだけで球場が大騒ぎとなった (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

 当時のナイターは午後7時開始で、たいてい7回か8回、時間にして8時半前後に登板。ゆえに"8時半の男"と呼ばれた宮田は、6月だけで5勝を挙げ、開幕から28試合登板で9勝1敗、防御率1.77。再びファン投票トップ選出のオールスターも今度は無事出場。一躍、ON(王貞治、長嶋茂雄)と[進田1]肩を並べる人気者になると、宮田がブルペンに姿を現すだけで球場が大騒ぎとなり、相手に重圧がかかった。

 重圧のなかで相手は「宮田が出てくる前に点を取ろう」と焦り、いざ登場するとあきらめの雰囲気になる。それほど絶対的だった宮田は、ミヤボールを駆使した前年より球速が向上。速球主体で向かっていき、ポップフライに仕留めるケースが増えた。さらにもうひとつ、城之内によれば、持病がある宮田独自とも言える強みがあった。

「セットに入って、ボールを長く持つ。ルールの20秒を超える時もあったんじゃないかな。それでタイミングを考えながら投げる。心臓が悪いのもあったと思うけど、宮田みたいなピッチャーはそれまでいなかった。オレも先輩らも、どんどん力で押して勝負してたし、オレなんか早く投げすぎて怒られたんだから(笑)」

 心臓疾患の持病があった宮田は、マウンド上でも発作的に脈拍が急変しそうになる時があった。それを鎮めるためにもボールを長く持ち、プレートを何度も外すなどして打者のタイミングを狂わせた。事実、大洋(現・DeNA)の巧打者・近藤和彦は「球そのものの威力というよりも、僕にとっては、長いインターバルで、じらして投げてくるのが嫌だ」と言っている。

【チームの91勝中42勝に貢献】

 一方で、阪神の強打者・山内一弘は「宮田がこんなに勝っているのは、マスコミが『8時半の男』などと言って、自信を持たせたからだ」と論評。前年首位打者の中日・江藤慎一は「じっくり腰を据えてかかれば攻略できんことはない。そう思っているのだが、向こうはゲームの終わり頃、ちょっと出てくるだけで、いつもつかまえる前にコソコソ逃げられてしまう」と発言している。

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