江川卓のボールがうらやましかったライバル・西本聖「お金で買えるなら買いたいとさえ思った」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

「一緒にゴルフしたり、遊んだりしましたよ。嫌いだったらゴルフなんかしないじゃないですか。世間的には、中畑さんと原は僕らよりも仲がいいように映っていると思いますが、ふたりがゴルフをしたっていう話は聞いたことがないです。中畑さんも言っていましたが、意識的に原とは飲みに行ったり、つるむことはなかったと。でも、僕はそれがプロだと思いますね。江川さんと仲がよかったと言いましたが、個人的に江川さんとメシに行ったことは一度もありません。長嶋茂雄さんと王貞治さんも、ふたりで食事や飲みに行ったことがないと聞きました。不思議なことではなく、そういうのってわかりますよ」

 遠征に行っても、西本と江川はほとんど宿舎から出ることもなく、部屋で過ごしていたという。ただ、江川の周りには定岡、鹿取義隆、角盈男といった同世代が集まり、西本は一匹狼の如く、黙々と鍛錬に励んでいた。

 だからといってチームで浮いていることはなく、投手会の飲み会やゴルフコンペといったイベントには好んで参加し、江川ともども屈託なく楽しんだ。

「どれだけ頑張っても勝ち星を抜けない時、江川に言われたのが、『ニシな、20勝は違うぞ。だから、20勝はしたほうがいいよ』と。そういう話はしていただいてね。それで89年に中日に移籍して、すぐ20勝したんです。その時に、そういう意味だったのかというのはありました。19勝ではダメなんですね」

 1989年に巨人から中日に移籍した西本は、20勝6敗、防御率2.44の成績を挙げ、最多勝とカムバック賞に輝いた。過去に沢村賞、日本シリーズMVPのタイトルを獲得したことのある西本だったが、「これが江川さんの言っていたことかぁ」と20勝の金字塔はそれとは比べものにならなかった。自身でも20勝は尊いものだと理解していたが、それ以上に世間が掛け値なしに認めてくれる。あらためて20勝の偉大さを知った。

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