江川卓は突然の連絡に急遽アメリカから帰国した ドラフト2日前「巨人に入れるから帰ってこい」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 アメリカの大学の公式戦は、3月から6月(プレーオフ)までで、夏休み期間は活動がない。そのため7、8月はアラスカのサマーリーグに参加する選手が多い。リタイアした富裕層が多い地域が点在しているアラスカでは、夏の間は白夜となる。これといった娯楽もないためか、オーナーたちがスポンサーを募って全米の有望な選手を呼んでリーグ戦をやることで地域活性化を図っている。

 全米各地のカレッジの有望な2年生選手から選抜されたメンバーで構成されたアラスカのサマーリーグは、グレイーシャー・パイロッツ、パーレー・グリーン・ジャイアンツ、ゴールド・パーナーズ、キンナイ・オイラーズの4チームで構成され、7、8月の2カ月間で48試合をやる。江川は、アンカレッジを本拠地とするグレイーシャー・パイロッツの先発5本柱のうちのひとり。

 最初は、大学時代のように様子見で投げていると簡単に打たれまくった。あらためてアメリカのバッターのパワーに驚き、1番打者だろうと下位打線だろうと気を抜かずに投げることを心かがけた。

 江川はこのサマーリーグについて「のちにメジャーに行くような選手たちと対戦でき、メジャーのレベルを知れたというか、大変勉強になりました」と語っている。

 2カ月間で48試合は大学1年間の試合数より多く、異動日なしのスケジュールで日本ほどの面積を移動する。プロ野球の予備練習になると思い、江川は実戦で投げられる喜びを存分に噛み締めた。

【ドラフト2日前に突然の帰国命令】

 サマーリーグを終えて江川の身辺はいろいろと騒がしくなった。まず、交渉権を持っていたクラウンが9月12日、電撃的に球団売却を発表し、球界が騒然となった。売却先は西武鉄道グループ。つまり、国土計画社長の堤義明がライオンズ球団を買収し、本拠地も埼玉県所沢市に移転すると正式に合意したのだ。

 当時の西武グループといえば資本力は豊富で、一夜にして球団の環境が激変した。じつは、このサマーリーグ期間中に西武関係者が一度だけ江川と接触を図っている。接触といっても膝を突き合わせての会談ではなく、練習中の移動で記者が取材するように軽く話しかける程度のもの。

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