ヤクルト奥川恭伸が絶望の日々を乗り越え2年ぶり一軍マウンドへ「やめようと思ったことも」 (6ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya

 奥川は「なんで野球をやっているんだろう」と思った時期もあったという。

「野球が嫌いになったというか、こんなにしんどいなら自分からやめようと思ったこともありました。でも、ネガティブになっている時に、自分はまだまだできるんだと光を与えてくれる人たちがいたんです。今はその人たちのためにも野球を長く続けないといけないし、もう野球はやめられないなと(笑)」

 今年でプロ5年目となる奥川だが、年齢で考えればまだ大卒1年目。チームには今年、西舘昂汰、石原勇輝という大卒1年目の同級生投手が入団した。

「そうですね。今年は大学を出て1年目だと思えば、僕にとって新しいスタートというか、そういう気持ちでこれから頑張っていきたいですね」

 すでに登板日は告げられているのだろう。「一軍の登板はまだ先なのに、よく眠れないんですよ」と笑った。

「寝る前にいい時のイメージを頑張ってしているんですけど、ストライクが入らなかったらどうしようとか、一軍で強く腕を振ったときにスタミナが持つのかなとか。もうそこは流れに身を任せるだけです」

 そうして奥川が言った何気ないひと言が深く胸に響いたのだった。

「僕はまだまだ野球大好きな"野球小僧"です」

 2年ぶりとなる晴れ舞台への復帰。想像を絶する苦しみを乗り越えた先には、純粋に投げられることの楽しさと喜びが待っているのだった。

著者プロフィール

  • 島村誠也

    島村誠也 (しまむら・せいや)

    1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。

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