菅野智之&涌井秀章のピッチングを与田剛が解説 スピード全盛時代に輝く「ベテランの妙味」 (3ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi

 特徴的なのは、インコースの使い方です。インコースのボールというのは、ひとつ間違えれば長打が出やすい。そのため、打者も振ってくる可能性が高い。菅野や涌井は、打者が振ってくることを見越して、あえてそのコースよりも少しだけずらして投げることができる。ずらした分、打球は野手の正面に飛ぶか、ファウルになる。そうやってカウント、アウトを稼いでいく。

 よく"ベテランの味"と称されますが、ベテランはバットを振ってくる、ボールに当てられることを想定したピッチングをします。経験の浅い投手は、「いかに打たれないか」「いかにボールに当てさせないか」「いかにランナーを出さないか」を目指して投げると思うのですが、ベテランになれば点を取られないことを最優先します。ランナーを背負ったとしても、点さえ取られなければいいと。

 そうしたピッチングができるのも、これまでの経験から引き出しを増やし、それをマウンドで存分に発揮できるからです。今の菅野や涌井のピッチングを見ていると、引き出しの多さを感じます。現状で勝てる投球を探し、実践できる。たとえば、ある球種の調子が悪かったとしても、ほかの球種、制球力などを駆使してピッチングをする。その引き出しの多さが、今も一線級で活躍できる要因ではないでしょうか。

 もちろん、彼らも人間です。いいピッチングがいつまでも続くわけではありません。シーズンを通して、好調を維持できるかどうかもわかりません。とくに投げたあとの疲労は、ベテランになればなるほど取れにくくなる。首脳陣と相談し、登板調整の工夫も必要になるでしょう。

 しかし、それらも含めてベテランのピッチングを楽しみたいと思います。彼らのピッチングには、一球一球に根拠があります。150キロを超すストレートや派手なプレーは野球の醍醐味ではありますが、ベテランの投じる一球もまた"野球の妙味"です。


与田剛(よだ・つよし)/1965年12月4日、千葉県君津市出身。木更津総合高から亜細亜大、NTT東京を経て、89年のドラフトで中日から1位指名を受け入団。1年目から150キロを超える剛速球を武器に31セーブを挙げ、新人王と最優秀救援投手賞に輝く。96年6月にトレードでロッテに移籍し、直後にメジャーリーグ2Aのメンフィスチックスに野球留学。97年オフにロッテを自由契約となり、日本ハムにテスト入団。99年10月、1620日ぶりに一軍のマウンドに立ったが、オフに自由契約。2000年、野村克也監督のもと阪神にテスト入団するも、同年秋に現役を引退。引退後は解説者として活躍する傍ら、09年、13年はWBC日本代表コーチを務めた。16年に楽天の一軍投手コーチに就任し、19年から3年間、中日の監督を務めた。

プロフィール

  • 木村公一

    木村公一 (きむらこういち)

    獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテーターも務める。

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