菅野智之&涌井秀章のピッチングを与田剛が解説 スピード全盛時代に輝く「ベテランの妙味」 (2ページ目)
それは涌井も同じで、彼の場合はしっかり立つためわずかにセンター方向に体を捻る動作を加えることで、より軸足に体重が乗るように努めています。捻りを加えると、横のブレが生じやすくなり、ひとつ間違えればバランスを崩しかねない。でもそれができているのは、状態がいい証拠と言えるでしょう。
いわゆる"軸を整える"というバランスのいいフォームというのは、投手であれば誰もが目指すところでもあります。ベテラン投手のなかでそれがうまくできているのは、ダルビッシュ有(パドレス)もそうですが、日本のプロ野球では菅野と涌井です。
また彼らに共通しているのは、左肩の使い方です。左足を踏み出してからの左肩の開きが遅く、バッターからすればタイミングが取りづらいうえ、上半身と下半身で捻転差が生まれるため、ボールに勢いがつく。
配球については、それぞれの個性が反映されているように思います。菅野はストレートを中心にカットボール、スライダーといった横の揺さぶりで勝負する。涌井もストレート系の球を軸に、フォークを効果的に使うことで高低を生かしたピッチングができています。ともに150キロの球速はありませんが、ストレートを軸にしているところに注目です。
真っすぐに始まり、真っすぐに終わる──投手にはそんな感覚があります。ただ、若い頃の"ストレート"とベテランのそれは、またちょっと違います。若い頃というのは、速い球を投げることに一生懸命になりがちです。しかしベテランになると、まず体力的に速い球は投げられない。その代わり、球速を求めるのではなくボールの質にこだわります。要するに、変化しないきれいな回転のボールを意識します。
【打者心理を生かした投球】
そしてもうひとつ、ストレートの使い方を覚えます。ふつうなら真っすぐを選択しないようなカウントで、ヒットになりづらいコースに投げる。また、ストレートを待っているところにあえて投げ込み、絶妙なコース投げ込んで打ちとる。いわゆる"打者心理"を利用したピッチングです。
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