江川卓フィーバーは個人情報だだ漏れの時代に過熱 過酷日程の陰でチームには不協和音が (2ページ目)
ある婦人雑誌には『江川卓くんがいまいちばん大切にしているガールフレンド!』と、恋人らしきと思われる一般の女子高校生を3ページにわたり、しかも実名、写真入りで掲載するなど、今では想像もできないことが起きていた。
このあたりから江川はマスコミに対して不信感を募らせ、ナーバスになっていく。
また全国各地から練習試合、招待試合の申し込みが殺到し、江川をはじめとした作新ナインは心身ともに疲弊していくことになる。
金曜日の授業が終わると学校を出発し、土日に試合をして戻ってくるというサイクルで、4月から6月の大事な夏の準備期間を遠征に明け暮れた。
4月20〜23日の福岡での招待試合を皮切りに、5月3〜6日が沖縄で若夏国体、5月12〜14日がMRT招待高校野球大会(宮崎県宮崎市)、5月19〜23日が春季関東大会(山梨県甲府市)、5月25〜28日が熊本での招待試合、6月22〜24日が富山で遠征交歓試合などが行なわれた。これらは飛行機、新幹線を利用した遠征で、このほかにもバス移動による県外試合が組まれるなど、7月17日から始まる地方大会の10日前まで続いた。
遠征に行くと、移動やらなんやらで3、4日間は時間をとられてしまい、その間、チーム練習、個人練習はまったくできない。さらに招待試合に行くと、夜は地元の名士が集まっての歓迎を受けるのだが、そこに江川が呼び出され「フォームがよくない」「もっとテイクバックを大きくしろ」など、名士たちが聞きかじりの知識で指摘する始末。山本はその様子を見て、複雑な気持ちになった。
「名士の方は新聞に掲載された江川の分解写真を見て、いろいろ指摘するんです。おそらくプロの投手と比較して指摘しているんでしょうけど、江川はまだ高校生ですよ。それだけ高いレベルを求められていたということなんでしょうが、さすがにかわいそうでしたね」
山本は江川を混乱させないよう、フォームに関しては「腰の位置が高いから、もう少し低くしろ」とアドバイスしたが、それ以外は言わないようにした。
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