江川卓、伝説の球宴8者連続三振 9人目にカーブを投げた瞬間、篠塚和典は「嫌な予感がした」 (2ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Sankei Visual

【掛布らとの勝負では「ギアの入れ具合が違った」】

――さまざまな名バッターとの勝負がありましたが、篠塚さんが個人的に「見応えのあった対戦」を挙げるとすれば?

篠塚 やっぱり最初に思い浮かぶのは、掛布雅之さん(元阪神)との対戦です。他のバッターと対峙する時とはギアの入れ方が全然違いました。江川さんがインサイドの高めに真っ直ぐを投げれば、掛布さんもそれに応えるように思い切りスイングしていましたね。江川さんとしても、「自分が納得のいく最高の球を投げて、それを打たれたら仕方がない」という感じに見えました。

 それと、同じ阪神で三冠王を達成した(ランディ・)バースとの対戦もそうですし、山本浩二さんや衣笠祥雄さん(ともに広島)など、当時を代表する各チームのスラッガーとの対戦は見応えがありました。
 
 ランナーを背負ったピンチの場面や勝敗を左右する場面でなくても、掛布さんや山本さんなどと対戦する時は、より真っ直ぐに力が入っていました。6、7、8番のバッターを迎える時とはギアの入れ具合が違いましたし、球場にいるファンの方々も、真っ直ぐでグイグイ押す江川さんの真っ向勝負を楽しんで盛り上がっていましたね。

――江川さんの真っ直ぐのすごさは今も語り継がれていますが、それ以外にピッチャーとしてのすごさを挙げるとすれば?

篠塚 バッターに向かっていく姿勢、気持ちの強さでしょうね。相手バッターも真っ直ぐを投げてくることがわかっているけど、それを投げ込んでいく。プロのバッターが真っ直ぐ1本に狙いを絞っているにもかかわらず、空振りさせられてしまうわけですから。たまに打たれる時もありますが、それでも自分のボールを信じ抜き、真っ直ぐで勝負する。そういうところでしょうね。

――ピンチでマウンドに集まった時、篠塚さんから声をかけることはありましたか?

篠塚 江川さんのほうが年齢が上ですし、自分から声をかけることはあまりなかったです。声をかけるとしても、「ここは、おまかせしますよ!」と言うぐらい。江川さんはうなずくような感じでした。

 日本シリーズなどの大事な試合でも、シーズン中の試合でも、江川さんは淡々と投げていました。「マウンドに近寄るな」という雰囲気もありましたよね。江川さんに限らず、ピッチャーってだいたいそうなんですよ。声をかけられてもリアクションすることもないし、本音はあんまりマウンドに来てほしくないんだと思います。

 ただ、定岡正二さんが投げている時は、ひとつ年上の先輩ではありますが、自分がマウンドに行く回数は比較的に多かったかもしれません(笑)。ピッチャーも個々に性格が違いますからね。

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