ダルビッシュ有の「野球に走り込みは必要ない」理論をフィジカルトレーナーはどう考えるか 日米では「身体の動かし方」の考えはまったく違う

  • Text by Sportiva
  • photo by USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 日本では野球をする子どもたちが、練習の前にランニングをする光景をよく目にするだろう。高校野球の強豪校などでは、何十kmという距離を走り込む、というエピソードも耳にする。

 しかし一方で、「野球には走り込みは必要ない」という理論もある。アメリカでフィジカルトレーニングを習得し、独自のトレーニング理論でバスケットボールのプロチーム、プロのサッカー選手や野球選手、五輪選手たちを指導する吉原剛氏も「必要ない」と同意する。その理由や、トレーニングにおける身体の動かし方について語ってもらった。

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【米野球チームの選手から「なぜランニングをやるんだ?」】

――日本とアメリカで野球のトレーニングには、どのような違いがありましたか?

吉原:私がフィジカルトレーニングの"修行"のため、アメリカにわたったのは20年以上も前のことになります。さまざまなスポーツを見ましたが、ある野球チームのフィジカルコーチとして入った時に、まずランニングの認識の違いに驚かされました。

 日本では当時、下半身を鍛えるために10km以上の走り込みを積極的に行なっていた。一方でアメリカでは、投手でも5km以上走っているのを見たことがなかったんです。

 ある日、練習の前のウォーミングアップで「軽いランニングをしよう」と私が提案すると、選手側から「なぜランニングをやるんだ?」という反発があって。「身体に疲労が溜まるから、いいパフォーマンスを発揮できなくなる。ランニングをするなら、その理由を教えてくれ」と怒ってしまいました。

――吉原さんは、それにどう答えたんですか?

吉原:身体を温めること、心拍数を上げること、可動域を広げるために走るんだ、と答えました。

――正当な理由のように感じますが......。

吉原:すると選手たちは、「それなら、スキップ動作やチューブトレーニングでも血流がよくなって身体が温まるし、長い距離を走る必要がないよね」と。それまでの常識が覆り、目から鱗が落ちました。

 確かにその通りで、ランニングをしなくても十分にウォーミングアップができることに気づかされたんです。先入観や固定概念がいかに選手にとってマイナスになるか、パフォーマンスを上げるには「Why」を明確に!と痛感しました。

 その方法を普段から実践していれば、雨天や、十分な広さがない試合会場で身体を準備する際にも困ることがありません。ひとりあたり、畳半畳分くらいのスペースがあれば十分なウォーミングアップができますから。

――長距離のランニングはあまり効果がないのでしょうか?

吉原:まったく効果がないわけではありませんし、競技によっても違います。「身体をリフレッシュさせる」「疲労回復を促進させる」という目的であれば有効ですし、「持久力をつけて心肺機能を大きくする」という効果もありますが、瞬発力が大事な野球では、長距離のランニングは必要ないと私は考えています。

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