ダルビッシュ有の「野球に走り込みは必要ない」理論をフィジカルトレーナーはどう考えるか 日米では「身体の動かし方」の考えはまったく違う (2ページ目)

  • Text by Sportiva
  • photo by USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

【大事なのは身体をコントロールできる能力】

――野球に適した「走る」トレーニングとは?

吉原:野球は持久力よりも瞬発力が必要とされるので、短い距離(10m、20m)のダッシュを何本も繰り返すこと。そういったトレーニングを積み重ねることで、「一瞬でエネルギーを大きくする動きを何度も行なう」ための持久力が身につきます。この瞬発力と持久力の組み合わせこそが、野球では必要だと考えています。

 サッカー、バスケットボール、ラグビーなどは、プレー中に速筋(瞬発系の筋力)と遅筋(持久力系の筋肉)をどちらも満遍なく使いますが、野球では遅筋はそれほど必要なく、投げる・捕る・打つ・走る時に速筋を使う機会が多い。しかも、速筋を遅筋に変えることはできますが、逆は難しいので、野球では短いダッシュの連続で速筋を鍛えることを勧めています。

――思い返してみると、MLBの選手が長距離のランニングをしているイメージはないですね。

吉原:MLBで長く活躍するダルビッシュ有投手も、野球に関しては過度の走り込みは必要ない、走り過ぎると野球に必要な筋肉が削り取られる、といった旨の発言をしていましたね。私の知る限りでは、彼もウォーミングアップでは、軽く動いたあとにはチューブを使っていたと思います。大谷翔平選手も同じようなウォーミングアップをしていますし、重量加減球(ウェイテッドボール)を使って投げている姿も目にしますよね。

――アメリカでランニング以外のトレーニングでも違いがありましたか?

吉原:ストレッチも重視されておらず、「ストレッチのやりすぎによってパワーが弱くなるのではないか」とも考えられていました。硬い筋肉のほうがパワーが出るからという理由だそうです。実際に身体が硬く、あぐらで座れない選手が多かったです。

 これもウォーミングアップと同じで、ストレッチをする理由は固まった筋肉を緩めて血流をよくし、疲労回復を促すことですが、軽いエクササイズ(ウォーキングやチューブなど)のほうが血流をよくすることができるので、ストレッチよりも効果的なんです。

 日本では「柔軟性があるほうがケガのリスクが低くなる」と言われてきましたが、アメリカではケガの予防とパフォーマンスの向上は同一線上にあり、柔軟性については特に何も言われませんでした。ケガを予防するために、身体をコントロールできる能力が重視されていましたね。その能力が高まると、身体の異変に気づく感覚が鋭くなる。そんな時は練習をしないで、ケアに重点を置けるようになります。

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