日本をWBC1次リーグ全勝突破へと導いた「勝利とロマンの栗山流二刀流采配」を紐解く3つの決断 (4ページ目)
壮行試合、強化試合から続く不振に、栗山英樹監督は一度だけ、動いた。古巣の本拠地での試合だったことから4番起用の大義名分が立つ京セラドームのオリックス戦で吉田正尚を4番に据え、村上を6番に置いた。
本番前、最後となったその試合で村上はホームランを放ち、その後は3三振を喫する。しかし、その試合の結果にかかわらず、栗山監督は本番では村上に4番を任せるつもりだった。栗山監督は以前、こう話していたことがある。
「打てないなら打てないなりに、4番の仕事をしろということ。4番の仕事って何だと思いますか? それはチームを勝たせること。ヒットが打てなくても、チームが勝てば4番は仕事をしたことになります。だから僕は、4番を任せるバッターには常に『おまえを外すつもりはないよ、そこから逃げずにチームを勝たせてくれ』と言い続けてきました」
そして、日本代表は1次ラウンドを全勝で通過した。何がどんな作用を果たしたのかはともかく、村上が4番を打つチームは4試合、一度も負けなかったのだ。栗山監督が最後まで我慢したのは、村上の才能をわかっていて、そこまでの努力とか向かっていく姿勢を見てきたからで、そういう監督の姿をほかの選手たちは見ていたはずだ。
以前、大谷が話したように栗山監督の求心力は「ひとりひとりの選手と対話をして、一緒にプレーしたことがない選手も数日でお互いを知ることができる雰囲気を持っている」ところにあり、だからこそ指揮官は選手を信じ、不振に陥った村上を4番から外さなかった。その決断を、1次ラウンド全勝突破を叶えたロマンあふれる3つ目の理由として挙げておきたい。
著者プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。
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