侍ジャパンで圧倒的存在感 ダルビッシュ有が「世界一のために、世界一を考えない」の言葉に込めた思い (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi

 その象徴が"宇田川会"だ。すでに数多く報じられており、詳細は割愛するが、しゃべり下手で気後れしていた宇田川をイジりながらも輪のなかに引き入れた。そして宇田川がブルペンで力強いピッチングを見せれば、「自分の手の届かないところに行ってしまった」と、マスコミにリップサービス。

 普通なら緊張感が漂うばかりの代表合宿は、ダルビッシュの存在で、時に和やかな空気に包まれた。

【楽しくやるのが野球】

 楽屋話的で恐縮だが、こんなエピソードがあった。

 代表合宿2日目、ダルビッシュから「試合日を除き、毎日取材に応じる」というメディア向けの報せがあった。その代わりに練習中、移動時に話を聞く、いわゆる"ぶら下がり取材"はなしにしてほしいと。これは多数の記者が押し寄せることを警戒しての要望だったかもしれないが、それでも毎日のように対応してくれることはメディア側としてもありがたかった。

 だがこの行動は、見方を変えれば「自分が話題を提供するから、ほかの投手たちについて回るのは遠慮してほしい」という思いにもうかがえた。

 実際、ダルビッシュが矢面に立つことで、ほかの投手たちのプレッシャーはかなりの部分で軽減した。いわば風よけとなり、彼らを守ったのだ。

 ダルビッシュは言った。

「楽しくやるのが野球だと思うんで......」

 まだ日本では「楽しむ=遊び」という感覚が強く残っており、この言葉は時に誤解を生む。だがダルビッシュの言う「楽しく」は、言葉を変えて言うなら「満喫」に近いだろうか。

「自然体というか、小さい時から楽しんでやっていたはずですからね。原点じゃないですけど、そういうところをわかってほしいなと。ランニングの時でもそうですし、投内連携やゴロを捕球している時でも、とにかく楽しくやるのが野球だと思うんで」

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