広岡達朗が巨人の正捕手問題に持論「大城卓三よりも年上の小林誠司を第二捕手にしてどうする!」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin
  • photo by Koike Yoshihiro

【捕手は真面目じゃないとダメ】

 広岡は、かつての教え子である伊東勤を例に出し、次のように語る。

「西武の監督1年目の時に、ドラフト1位で伊東が入ってきた。伊東はとにかく真面目だった。試合であろうと、練習であろうと、絶対に座ってピッチャーにボールを返すことはなかった。ピッチャーや野手は、新人の頃から多少豪快な部分を持ち合わせてもいいが、キャッチャーはダメ。とにかく覚えることが多いため、一からコツコツと地道にやらなくてはならない。とにかく連動している作業が多く、少しの気の緩みがすべてを台無しにしてしまう。

 伊東は真面目だったから、1年目から少しずつ使っていたんだ。まずは打てるキャッチャーより、ソフトバンクの甲斐(拓也)のようにリードがうまく、ピッチャーのいい部分を引き出し、失点を少なくするのが先決なのだ。だが原(辰徳)は、阿部のイメージがあるんだろうな」

 先述したように、小林の年齢を考えれば、この先、劇的に打撃が向上するとは考えにくい。ならば生き残る道は、課題のバッティングを追求するのではなく、徹底的に守備を磨くしかない。今ある長所を伸ばしていくほうが、ベテランの域に達している選手の寿命は延びるというもの。

 そして広岡は、選手の年俸についても意見があるようだ。

「サラリーマン社会では、能力と貢献度に対して報酬が支払われるものだ。今の巨人を見てみろ。実績が伴わなくても高額な年俸で選手を拘束している。これは社会的秩序に反しているのと同じだ。一度すべてをご破算して、選手ごと年俸を見直してからチームを再建しないと、いつまでたっても堕落したままだ。チームの勝利に貢献したのであれば、それに見合う報酬は払うべきだ。ただ何年も成績が落ちたままで、それでも何億円という大金を手にするのはどういうことか......」

 働かなくても大金を手にすれば、人間は堕落してしまう。もう一度輝きを放つには、ハングリーになるべきだと広岡は言う。この "正捕手問題"は、今の巨人の悪しき体質の象徴のひとつとも言える。

著者プロフィール

  • 松永多佳倫

    松永多佳倫 (まつなが・たかりん)

    1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て 2009 年 8 月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数。

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