広澤克実が驚愕した「これぞ魔球」10選。「顔付近に来たボールが外角に決まるなんて...打てるわけない」

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Koike Yoshihiro

 ヤクルト、巨人、阪神の3球団で4番を打った唯一の選手である広澤克実氏は、通算19年の現役生活で1736安打、306本塁打を放った。現役引退後は阪神の打撃コーチを務めるなど、引退後も多くの投手に触れてきた。広澤氏曰く「どうしても打者が攻略できないボールは魔球である」。1985年のプロ入り以来、40年近くプロの球を見続けてきた広澤氏に「魔球」を投じた10人の投手を挙げてもらった。

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【藤川球児の火の玉ストレート】

 プロ野球草創期の沢村栄治さん(巨人)や、"怪童"と呼ばれた尾崎行雄さん(東映)はすごく球が速かったと聞く。また江川卓さん(巨人)の全盛期のストレートは「ホップする」と言われていた。私は現役晩年の江川さんと対戦したことがあるが、それでもスピードは図抜けていた。

 ただ、私がこの目で見てきたなかで一番すごいと思ったストレートは、藤川球児(阪神など)だ。現在、150キロ以上を投げる投手は何人も存在するが、球児のような伸び上がるストレートを投げる投手はほぼいない。江川さんは先発完投型、球児は1イニング限定だったという違いはあるが、とにかく圧巻のストレートだった。

 球児は2006年のオールスターで「全球ストレート」を予告し、第1戦ではアレックス・カブレラ(当時・西武)、小笠原道大(当時・日本ハム)、第2戦では清原和博(当時・オリックス)といったパ・リーグのスラッガー3人をすべてストレートで三振に打ちとった。その時、清原が発した「火の玉や!」は球児のストレートの代名詞となった。わかっていても打てない球児のストレートは、まさに"魔球"だった。

【身の危険を感じたキーオのカーブ】

 佐々岡真司(広島)のカーブは縦割れで、軌道が一度ヘルメットのツバの上にいくので、打者の視界から消える。その球を目で追うと、アゴが上がってしまいフォームを崩される。さらに佐々岡のカーブはスピンが効いていて、最高到達点からものすごいスピードで落ちてくる。

 そんな佐々岡のカーブの2ランク上をいったのが、マット・キーオ(阪神)だ。右打者の顔付近にボールが来て、そこから斜めに曲がり落ちて外角に決まる。しかも、佐々岡と同じくスピンが効いているからスピードもある。こんなボール、誰が打てるんだと......打者としては身の危険を感じるカーブだった。

 今だと「パワーカーブ」と呼ばれるもので、まるでピンポン球のように速く、鋭く、大きく曲がる。バッテリー間の18.44mでは考えられないほどの変化を見せた、異次元のカーブだった。とくに右打者にとっては難攻不落の魔球だった。

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