山本由伸、千賀滉大に共通する思考。進化するピッチングの秘訣は「常識にとらわれない発想力」 (4ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

育成出身ながら2016年から6年連続2ケタ勝利を挙げているソフトバンク・千賀滉大育成出身ながら2016年から6年連続2ケタ勝利を挙げているソフトバンク・千賀滉大この記事に関連する写真を見る

常識にとらわれない好投手たち

 むしろプロ野球における昨今の潮流を踏まえ、「成功例」として挙げる者もいる。元阪神の守護神で、メジャーでも活躍した藤川球児だ。

 近年、NPBの球場ではメジャーのように「硬いマウンド」が導入され、それがトミー・ジョン手術の増加につながっているのでは、と藤川は推察した。その対処法を考えた論考を『スポーツ報知』(5月10日「藤川球児氏が徹底分析 なぜNPBにトミー・ジョン手術増えた? 実体験に基づく一因と対処法とは」)に寄せた際、好例に挙げたのが山本だった。

<成功例はオリックスの山本だろう。以前は"腰高"のフォームは良くないとされたが、彼は重心を落とさない。軸足の右膝を折らずに、ためた力を捕手に向けて一直線に倒していく。だから、左足を踏み込んだ時に生まれるパワーを効率良くボールに伝えられている。体にかかる負担も軽減する。そのフォームは走り込みだけで築いたものではない。彼は『体幹強化を中心に地道なトレーニングに時間を費やす』と話していた。反動に負けないために大きな筋肉でカバーすることも重要で、体のつくり方の変化が求められている>

 ソフトバンクの千賀滉大も、"常識"にとらわれずに成長を続けるひとりだ。今季開幕前にはやり投げ日本代表歴のある選手たちとトレーニングを行なったが、3年前には投げ方をアップデートする必要性を感じていたという。『Number』1052号でスポーツライターの田尻耕太郎が千賀の考え方を紹介している。

<日本人のピッチャーって肘を基点にして投げる人が多い。肘から投げましょうと教わって育ってきたから。僕もそうでした。だけど、それでは質のいい球って実際には投げられないと感じていました。メジャーの投手や、日本ならば則本(昂大・楽天)さんの投げ方がいい。意識するのは『体でどれだけ放れるか』。肘を使わずに体の中心で投げるか。それを求めています>

 千賀や山本が象徴的なように、近年、日本のトップ投手たちはピッチングへのアプローチを進化させている。過去の常識に縛られず、さまざまな観点からヒントを探し、うまくとり入れて突き抜けていくのだ。荻野の言葉を借りると、「スポーツセンシング」と言えるかもしれない。

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