山本由伸、千賀滉大に共通する思考。進化するピッチングの秘訣は「常識にとらわれない発想力」 (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

 荻野は当初、大学院に入って研究しようと考えたが、前例がいっさいなかった。そこで図書館に通い、あるいは各専門分野の研究者とディスカッションを行ない、自身で学びを深めた。そうして数年をかけて完成した独自のアプローチが「スポーツセンシング」だ。今はオンラインサロンを開設し、センスに磨きをかけるための方法を日々指南している。

「イメージをつくる技術と、そのイメージに寄せる技術の高い人が『センスがある』と言われる人たちです。一番わかりやすいのはファッションセンス。こうしたらオシャレだなというイメージを頭のなかでつくり、そこに寄せていけるのがセンスのある人です。

 野球で言えば経験や脳、目を使って、どう情報をとらえるか。勉強ならテストに出そうな範囲や自分に足りないところを理解するのが、物事のとらえ方だと思います。そうした思考技術は全部の物事に共通しています。本当にセンスがある人が何でもできるのは、思考技術を身につけているからです」

見た目よりも大事なバランス

 荻野は小学生の頃から毎日壁当てを行なってスローイング能力に磨きをかけた。どれくらい負荷をかけ、疲れてきた時には力を抜くか。そうした試行錯誤はマウンドに立った時にも不可欠な能力だ。

 だが昨今、公園でボールを使って遊べなくなり、空き地も減少の一途をたどっている。子どもが野球をするには学童チームに所属する必要があり、かつての"遊び"は"習い事"に化した。投げ方から指導者に教えられるようになり、全員同じような投げ方をしているチームも珍しくない。

 その教えで伝統的に言われてきたもののひとつが、「ヒジを上げろ」という指令だ。プロ野球中継を見ていても、「ヒジが下がっている」と投球フォームの欠点を指摘する解説者は少なくない。

 たしかにフォームの一部を切りとればそのとおりかもしれないが、投球メカニクスは一連の動作として行なわれるものだ。局所的に直そうとしても改善にはつながりにくく、同時に危険も伴うと、荻野は指摘する。

「とくに子どもに対して『ヒジを上げろ』と言ったら、ヒジだけを上げます。その瞬間、本人が持っているバランスが崩れる。仮に見た目のフォームがよくなったとしても、バランスが崩れているので壊れかねない。本人が持っているバランスを一番大事にすべきで、大人が教えなければバランスは絶対に崩れません」

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