ソフトバンク又吉克樹のウソから始まった投手人生と仰天の出世物語。「横で投げたところなんて見たことがなかった」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

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連載『なんで私がプロ野球選手に?』
第8回 又吉克樹・前編

 プロ野球は弱肉強食の世界。幼少期から神童ともてはやされたエリートがひしめく厳しい競争社会だが、なかには「なぜ、この選手がプロの世界に入れたのか?」と不思議に思える、異色の経歴を辿った人物がいる。そんな野球人にスポットを当てるシリーズ『なんで、私がプロ野球選手に!?』。第8回に登場するのは、又吉克樹(ソフトバンク)。中学、高校と控えのセカンドだった通称「マメ」が、球界随一のサイドスローに君臨する仰天の立身出世ストーリーをお届けしよう。

香川オリーブガイナーズ時代の又吉克樹香川オリーブガイナーズ時代の又吉克樹この記事に関連する写真を見る── 今も自分がプロ野球選手であることに、現実感を持てない瞬間があるのでしょうか?

 その問いに又吉克樹は「いまだにありますよ」と即答した。

「『あれ? なんで俺、ここにいるんだろう?』って。FAの時に自分の記事が新聞に載っても、『えらい騒がれてるな』って。自分のことなのに第三者のように見てるんです」

 昨季まで8年在籍した中日から、FA権を行使してソフトバンクに移籍した。2021年までNPB通算400試合に登板し、通算143ホールド。今や球界を代表するサイドハンドと言っていいだろう。

 死にものぐるいで権利を得て、信念を持って行使したと胸を張って言える。その一方で、「この俺が本当にプロ野球選手なのか?」という夢見心地はいまだに消えない。又吉はポツリとこうこぼした。

「奇怪な人生を歩んでいるなと思いますよ」

身近なスーパースターの存在

 将来の夢はプロ野球選手。野球少年なら誰もが卒業文集に書くような夢を抱いたことがない。又吉は「プロ野球選手はゲームで使うもの」と言った。テレビゲームに登場する選手をコントローラーで動かす。それが又吉にとってのプロ野球選手だった。

 沖縄県浦添市で生まれ育ち、小学生の頃から背が低かった。与えられたポジションはセカンド。子ども心に「選手としては先がなさそうだな」と薄っすら感じていた。

 早くも諦観を抱いたのは、同じ地域にわかりやすいスーパースターがいたからだ。島井寛仁(ひろひと)。のちに紆余曲折の末にプロ野球選手となり、快足を武器に存在感を放つことになる。

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