斎藤佑樹が自らの野球の原点と語る中学時代。「好きな練習ばかり。もし指導者がいたら止められていた」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 ただ中学の時、ひとつだけ覚えている負けがあります。あれは3年の春の大会でした。雨のなかの試合で、初戦敗退したんです。こんなに雨が降っていて、どうやって投げればいいんだよ、なぜ中止にならないんだってイライラしながら投げていました。軟球って濡れるとめちゃくちゃ滑るんです。ところが相手のピッチャーは、球は速くなかったけどストライクが入る。ウチの打線はうまく打たされて、凡打の山です。

 その経験を生かすことができたのが3年の夏の大会でした。群馬県から2校の枠があった関東大会に僕らは準優勝して出場したんですけど、その初戦、船橋中との試合が雨だったんです。春の経験から、とにかくストライクを投げれば勝てると信じていたので、「ストライクを入れにいくだけでいい、そうすれば打ちとれる」と考えて投げていました......でも今、記録を見たら8つもフォアボールを出しているんですね(苦笑)。おっかしいなぁ、そんな記憶はないんだけどなぁ。

 結果、5回まで0−0、6回に相手のワイルドピッチで先制、その後もフォアボールや内野安打で7回までに5点を取りました。僕が打たれたヒットは......記録によると1本だけだったみたいです。生品中が5点も取ることってなかったから、あの試合は珍しい勝ち方(5-1)でしたね。

 最近、中学時代のピッチングフォームを動画で見る機会があったんですよ。きれいなフォームだなと思いつつ、ちょっと粗削りな感じもありましたね。力の入れ方、抜くべきところを抜く感じが上手だなと思う反面、リリースポイントの瞬間に力が入ってると思いました。力が入ると上下運動が激しくなるので、もっと抑えたフォームのほうが柔らかさを出せる。それをもっとうまく、シンプルに出せばいいのにって......いや、中学生にそこまで求めるのも酷な話なんですけどね。中学生の斎藤佑樹くんには「そのままいって下さい」とだけアドバイスしようと思います(笑)。

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 関東大会でベスト8となった斎藤のピッチングをたまたま観て、興味を抱いた人物がいた。早稲田実業の和泉実監督だ。この出会いがなければあの夏はなかった。次回はハンカチ王子、誕生前夜を描く──。

(第4回へ続く)

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