「あの子はここまでなのかな...」から高橋奎二は大きく成長。石川雅規らヤクルト投手陣が紡いだ物語

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Kyodo News

「シーズンを迎える時に『みんなで2021年の新しい物語をつくっていこう』と、選手たちにはそういう話をさせてもらいました」

 日本シリーズを翌日に控えた全体練習日、ヤクルトの高津臣吾監督は囲み取材で、シーズン開幕前の光景を口にした。

 2021年シーズン、ヤクルトは2年連続最下位からセ・リーグ王者となり、日本シリーズでパ・リーグ王者のオリックスに4勝すれば、20年ぶりの日本一に手が届くところまできていた。

「いま新しい物語の最後の1ページを飾れるかもしれない場所まで来ることができた。みんなでいい最後の1ページをつくっていきたいという思いはあります」

 今シーズンのヤクルトの戦いは、想像をはるかに超えた壮大な物語となった。高津監督の「絶対大丈夫」という言葉のもと、一つひとつのシーンが重なることで1ページとなり、ヤクルトにしかつくれない物語が紡がれた。

 取材をするなかでめぐり会った、いくつかの「ページ」をめくっていきたい。

■高橋奎二が「監督を喜ばせたい」という目標を2年越しで実現

 高津監督就任直後の2019年秋の松山(愛媛)キャンプでのこと。先発左腕として期待されていた高橋は、来シーズンの抱負について力強く答えた。

「高津監督には二軍でもよくしていただいたので、期待を裏切りたくないというか、それ以上の結果を残すことが目標です。なんとか監督を喜ばすことができればと思っています」

 2020年7月30日の阪神戦では、プロ初完封こそ逃したが、8回無失点の好投で勝利投手となった。高津監督は試合後、記者からの質問を待たず開口一番で喜びを口にした。 

「あの奎二がねぇ(笑)。本人もうれしいだろうけど、僕もうれしいね」

 高橋は入団してからの2年間は腰や肩のケガに苦しんだが、その日の投球は未来を予感させる見事な内容だった。

「一生懸命練習する子ですし、礼儀もしっかりしている。性格は相変わらず甘ちゃんですけど、悪い子じゃないですし、甘え上手というか、母性本能をくすぐられるタイプですよね(笑)。毎年少しずつ、毎試合少しずつ成長していると感じますけど、僕の要求するところはもっともっと高いところにあります。そこに少しでも近づいてほしい」

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