「絶対にごまかしは利かなくなる」イップスを経験した荒木雅博が悩む選手へ伝えたいこと
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連載第30回 イップスの深層〜恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・荒木雅博(4)
プロ野球という世界は、当然ながら一流の強者ばかりが集まってくる。右を見ても左を見ても惚れ惚れする技術を持った職人ばかり。そんななか送球イップスを抱えた選手が混じっていれば、完全無欠に見えた芸術品に瑕(きず)が入るかのように目立ってしまう。
現在は中日の一軍内野守備・走塁コーチを務める荒木雅博は、イップスに陥りそうな選手の兆候を見逃さないよう目を光らせている。
「ちょっと危ない選手は、腕が動かなくなりますね。腕が固まって、すごく硬い動きになる。だんだん手首が固まってきて、『あれ、どこでボールを離すんだっけ?』と気持ち悪い感覚になっていく。これは(イップスに)なっている人間じゃないとわからないかもしれませんね」
根尾昂にアドバイスを送る荒木雅博コーチ 幸いにも現在の中日には、イップスと呼ぶほどスローイングに苦しんでいる選手はいないという。ただし、荒木の目から見て「今のうちに変えておかないと危ないかもしれない」と感じる選手はいる。だが、多くの選手は自分が泥沼に片足を踏み込んでいることに気づかず、悪化させていくという。
「ごまかしごまかしでできている間は、どこかで『大丈夫だ』という思いがあると思うんです。でも、プロで長いことプレーしようと思ったら、絶対にごまかしは利かなくなります。結局はイップスという症状が出て、もうどうしようもないという状況になるまで、選手は人の話を聞かないものなんです」
イップスに悩んだ現役時代、コーチから「気持ちの問題」で済まされ自尊心を傷つけられた荒木だが、自身がコーチとなった今はこんな決意を固めている。
「もし、今後イップスの選手が出てきたら、向こうが『もういいです』と言うまでとことんつき合おうと思っています。『この方法をやろうよ』『今度はこうしてみたら』と。だって、気持ちひとつで片づけられる問題じゃないんですから」
指導者からのアドバイスをきっかけに、選手がメカニズムを崩してイップスに陥るケースもある。指導者としてどんな技術的なアドバイスを送るべきか。荒木は2つのポイントを挙げる。
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