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阪神ドラ2左腕・伊藤将司は「ケタ外れのメンタル」。スピード全盛時代でも脱力投法を貫く

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

「こんなに順調にいくとは思ってなかったです」

 その言葉からは驚きや戸惑いといった感情は読み取れない。阪神タイガースのルーキー・伊藤将司は、ごく淡々とプロ入り後の実感を口にした。

「プロの世界で有名な選手と対戦する中で、『ここで打たれたらダメだ』とか考えずに、しっかりと自分の投球ができているのかなと」

開幕以降、快投を続ける阪神ドラ2左腕・伊藤将司開幕以降、快投を続ける阪神ドラ2左腕・伊藤将司

 開幕から5試合に先発登板し、3勝1敗、防御率2.57。ドラフト1位ルーキーの佐藤輝明ばかりにスポットが当たるが、このドラフト2位の即戦力左腕も阪神の快進撃に大きく貢献している。

 活躍の要因について、伊藤はこんな見方をしている。

「社会人(JR東日本)の時からずっと高いレベルの打者と対戦することを想定して、自分の場合はとにかく低めに投げることを意識してやってきたので。球種も変わっていませんし、そのとおり投げられていると思います」

 たしかに社会人時代から、伊藤はことあるごとに「低め」への強い意識を語っていた。それでも、低めを意識している投手は伊藤だけではない。新人離れした活躍の要因としては、足りないように思えた。

 そもそも、伊藤は昨年のドラフト会議前の段階でとりたてて注目を浴びる存在ではなかった。阪神のドラフト2位指名に、一部関係者から驚きの声もあがったほどだ。

 伊藤が際立って注目されなかった理由は、少なくとも3つは考えられる。

 まず、昨年の社会人野球はコロナ禍の影響でドラフト会議前の公式戦がことごとく中止になったこと。せっかく状態が上向きでも、公式戦でアピールできる機会が少なかったのだ。

 第2に、伊藤自身が故障からの回復途上にあったこと。国際武道大4年春に左ヒジを痛め、同年のドラフト会議では指名漏れに終わっている。社会人1年目の2019年も本人が「あまり自分のピッチングができなかった」と振り返るように、本調子とは程遠い状態だった。

 そして第3の要因は、伊藤の投球スタイルにある。パワー野球全盛の今、ドラフト候補で最速150キロを超える投手は珍しくなくなった。佐々木朗希(ロッテ)が大船渡高時代に最速163キロを計測してニュースになったように、球速はドラフト候補の実力をはかる大きなバロメーターになっている。

 しかし、社会人時代の伊藤の最高球速は146キロ。試合では常時140キロ前後と、球速が目立つ投手ではない。

 以上の3つの要因が絡まるなか、阪神は伊藤の実力を高く評価して2位指名しているのだ。

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