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荒木雅博が断言「イップスになったら、野球をやめるまで治らない」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

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連載第28回 イップスの深層〜恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・荒木雅博(2)

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「簡単じゃないか。あとは気持ちの問題だから──」

 コーチにしてみれば、イップスに悩む選手を励ますための声かけだったに違いない。だが、声をかけられた当人としては、「気持ちの問題で済ませたら、コーチはいらなくないか?」という本音が頭に渦巻いた。

「野球選手の7〜8割はイップスを持っている」と語る荒木雅博「野球選手の7〜8割はイップスを持っている」と語る荒木雅博 二塁でのレギュラー定着後、送球イップスを発症した荒木雅博は、どのようにしてイップスを解消するか悩んでいた。チーム内に協力者は事欠かなかった。だが、当時の中日にはイップス経験者の指導者がいなかった。「なんでこんな簡単なこともできないんだ?」という目で見られるたびに、荒木は自尊心を傷つけられた。

「それは傷つきますよ。でも、逆に(イップスに)なったことのない指導者の立場からすれば『なんでできねぇんだよ』と思ってしまうのはしょうがないでしょうね。だから『なんでできないんだ』と思っちゃダメとは思いません。ただ、そう思ってから『どうするか?』は考えてほしいですね」

 イップスの症状は人それぞれに異なる。なかには腕を振る際にボールが自分の頭に当たってしまうような症例もあるが、荒木はそこまで悪化していなかった。時折、腕の振りが固まるようにぎこちなくなるものの、大部分はごまかしながらプレーしていた。

 若手時代に経験のある外野手にポジションを移す選択肢もあった。だが、荒木は「自分にはそこまで打力の確実性がないから、内野のまま投げ方を治したほうがいい」と判断した。

 荒木が主戦場としたセカンドというポジションは、さまざまな距離を投げる必要がある。ショートスローもあれば、中継プレーの際にはカットマンとしてロングスローをすることもある。「セカンドはイップスになりやすいポジションだと思う」と語る荒木にとって、どんな距離での送球が難しかったのだろうか。

「打球に思い切り早く追いついて投げたり、カットプレーで急いでバックホームしたり、ギリギリのプレーはなんもきつくないんです。近くに投げるのが一番イヤなんですよ。それ以上、何もなかったですね」

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