名手・荒木雅博がイップスの恐怖に引きずり込まれたウッズの守備範囲
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連載第27回 イップスの深層〜恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・荒木雅博(1)
「こういうことを聞きたかったライターの方は多かったと思うんです。でも、みんな気を遣ってか、面と向かって聞いてくる人はいませんでした。もしかしたら、今後こういう仕事が増えるかもしれませんね。こいつ、いけんじゃん。話してくれるんじゃんって」
平然とした様子で、荒木雅博は静かに笑った。
現在は中日の一軍内野守備・走塁コーチを務めている。23年間の現役時代では通算2045安打を放ち、盗塁王1回、ベストナイン3回受賞。井端弘和との二遊間は「アライバコンビ」と称され、2004年から2009年まで井端とともに6年連続ゴールデングラブ賞に輝いている。
現役時代、ゴールデングラブ賞6回の名手・荒木雅博もイップスに苦しんだという そんな荒木が送球イップスに苦しんでいたことは、もはや周知の事実だった。
インターネットの検索サイトで「イップス」と打ち込めば、荒木の名前がすぐに出てくる。もはや野球界におけるイップスの代名詞のような存在なのだ。
周囲はおろかファンの間でも「荒木はイップス」と周知されていることは、言い知れぬ屈辱感があったのではないか。現役を引退して2年以上が経つ荒木に尋ねると、「うーん」と少し考え込んだ後にこんな答えが返ってきた。
「でも、もうしょうがないですもんね。イップスなんだから。それを隠そうとしたり、『俺は違いますよ』と言ったりしている間は、イップスは治りませんしね。受け入れるところから始めないと」
荒木はなぜイップスを発症したのか。若手時代にファームの先輩選手に苛烈な仕打ちを受け、イップスになったという記事もあった。デリケートで聞きにくい内容ではあったが本人にぶつけてみることにした。
すると、荒木は「はっはっはっ」と笑って、こう答えた。
「僕の場合はね......。これを言ってしまうと、人のせいにしてしまうことになるんですけど。タイロン・ウッズという選手はね、なかなか動かない人だったんですよ。ちょっと一定のところに投げないとなかなか捕ってくれない人だったので、そこで考え過ぎた感はありましたね」
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