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アテネ五輪、野球日本代表の混乱。高木豊が語る長嶋監督不在の重圧と影響 (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo

――FAXの件は、『高木豊チャンネル』(2021年4月29日の投稿動画)でも拝見しました。息子の長嶋一茂さんが、長嶋監督の意向を代理で伝えてくれていたと。

高木 そうなんです。一茂は「親父がアテネに行けない悔しい思いは、未練たらたらっていうレベルじゃなかったので」と言って、必死に伝えてくれました。「親父の言ってることを誰も理解できないんですけど、僕は親父が伝えたいことが全部わかったんですよ」とも言っていましたが、そこはさすがに親子ですよね。スタメンのオーダーなど、長嶋監督の考えを細やかに伝えてくれました。

 FAXの中には、「これ、本当に監督が言っているのかな? 一茂の言葉かな」という内容もあったのですが、「一茂がそばにいて話をしているんだから、監督の言葉として受け取ろう」という共通の意識が、中畑さんはじめ首脳陣の中にありました。監督が現場にいない不安はすごく大きいですから、そのFAXが届くまでは「まだFAXこないんですか?」と何度も確認しましたし、ものすごく助けられました。

 印象的だったのは、銅メダル獲得をかけたカナダ戦前のFAX。バッティングオーダーが送られてきたんですけど、「全員使ってあげてください」という優しいメッセージが書いてありました。

――それでも、現場で指揮を執るのは中畑ヘッドコーチですから、いろいろと苦労があったと思います。

高木 苦しそうなのを見ていて僕らもつらかったし、「なんとか中畑さんを助けなきゃいけない」という思いでした。ただ、現場では大変でしたね。本戦では中畑さんと自分と投手コーチの大野(豊)さんの3人体制で、大野さんはブルペンにいて、自分は三塁のコーチャーズボックスに立たなきゃいけないですから、中畑さんはベンチでひとりなんです。相談相手がいないことも、苦しかったと思いますよ。

 現地に入ってから、中畑さんはプレッシャーで眠れない状態でした。アジア予選でもプレッシャーはありましたけど、本戦はさらに上。中畑さんが「もう寝よう」と言うまで、僕も大野さんもずっとそばにいました。

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