「DH制は特効薬にはなりえない」。五十嵐亮太が実感したセ・パの差 (2ページ目)
セ・リーグに欠けた「地の力」と「発想」
セとパの違いで話題に上がるトピックのひとつに「パワーの違い」がある。パ・リーグには150キロを投げる投手が多いため、打者のスイングも必然的に強くなるということだ。
「まさに先日、楽天でも投手コーチをしていた伊藤智仁さん(現ヤクルト投手コーチ)と、パワーピッチャーについて話をしたのですが、言われているほどスピードの差はないんじゃないかと思います。
しかしながら、肌感として確実に、パ・リーグのほうが投手や打者の平均的な能力は高い。打者であれば、速い真っすぐに反応できて、飛距離も出せますし、投手であれば、真っすぐでグイグイ攻めていきます。セ・リーグに比べて、自分の能力を全面に出して相手とぶつかっていく選手が多かった印象がありますね」
"能力の高さ"という言葉に力がこもる。
「以前、柳田(悠岐/ソフトバンク)に聞いたことがあるんです。なんでそんなに強いスイングができるのか、って。そしたら『若いころから、量を振るよりも強く振ることを意識してやってきたんです』と。
そういう意味で、ソフトバンクに関していえば育成する環境がすばらしい。僕も筑後の二軍施設でトレーニングをしましたが、ああいった環境は他にないですね。ざっくりといえば、能力の底上げをする練習をしている。育成であれば、体を大きくしてだとか、強く振るとか、足を速くとか。選手の長所の伸ばし方が本当に上手だったと思います」
対して、セ・リーグについては「バランスのとれた選手を集めたがる傾向にあるのかな」と考える。
「練習量だけ見れば、リーグ間でそんなに差はないと思います。ただ、セ・リーグの選手たちは、特別に遠くに飛ばそうとか、スイングを強くしようではなく、"上手く"なろうとするあまり、細かい部分に執着しているように見受けられました。
投手にしても、やっぱり投げ方など技術に走りがちな印象がありますよね。細かなところももちろん必要ですが、並行して遠投をして遠くに投げる能力とか、力強さといった"地の力"を磨いていくことも大切です」
そういった地の力に加えて、五十嵐氏は自身の現役時代を振り返りながら、「柔軟な発想も必要」と続ける。
「パワー、フィジカルの向上と並行して、もう一つ、選手一人ひとりが自分の力を最大限に伸ばすためにはどうするべきか、とじっくり考えることも必要なんです。僕も、若い頃は"豪腕投手"と言われていましたし、それはそれで悪い気はしなかったのですが(笑)、実際は真っすぐだけで抑えるのは難しい。
その点、スワローズで古田(敦也)さんとバッテリーを組んだ経験は財産になりましたね。真っすぐでいくというイメージをバッターに与えながら、初球をフォークで入ることもありました。剛と柔を混ぜるではないですが、古田さんのリードを通して自分の『生きる道』を見つけていった気がします。今振り返ると、ある程度地の力があったからこそ、攻めの幅が広げられたのかなと」
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