「1mのバットが50cmに見えた」。八重樫幸雄が大杉勝男に感じた一流打者の証

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

――当時すでに、大杉さんはパ・リーグでホームラン王、打点王も2度ずつ獲っていました。大杉さんも「荒川道場」入りしたんですか?

八重樫 道場入りしましたよ。自分の意思で来たのか、荒川さんに呼ばれたのかはわからないけど。大杉さんは自分が納得しなければ動かない人だったから、きっと王さんを育てた荒川さんから「何かを学びたい」という思いがあったのかもしれないですね。

――これも以前伺いましたけど、「荒川道場」での教えは杉浦享さんにはハマったけど、八重樫さんにはまったくハマらず、逆に打撃フォームやタイミングの取り方を崩す結果となりました。大杉さんはどうだったんですか?

八重樫 杉浦の場合は室内練習場で教えてもらってたんだけど、荒川さんの自宅に呼ばれたのは僕と大杉さんぐらいだったな。でも、大杉さんは5日間ぐらいしか荒川さんの自宅には通わなかったかな。さすがに荒川さんも、大杉さんに「一本足打法にしろ」とは言わなかったけど、全然ハマらなかったんだと思います。

――荒川道場名物の「真剣トレーニング」は、大杉さんもしたんですか?

八重樫 もちろん、しましたよ。初めての経験だったと思うけど、きちんとパンツ一丁で真剣を使って、天井からぶら下がった紙片をスッパリと斬っていました。

【1mのバットが50cmに見えるスイング】

――移籍早々、荒川道場での大杉さんの素振りを見て、「さすが一流打者だ」となりましたか?

八重樫 なりましたよ。なんて言ったらいいのかな? バットが実際の長さよりもずっと短く見えるんだよね。普通のバッターだと、ずっとバットの長さは変わらないように見えるんだけど、大杉さんの場合は約1mのバットが半分の50cmぐらいに見える。そして、インパクトからフォロースルーの瞬間に再び1mに戻る感じです。「あぁ、バットを振るというのはこういうことなのか」と、大杉さんのスイングを見た時に初めて思ったね。

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