伊藤智仁「喜びも希望もなかった」。圧巻デビュー戦でのまさかの真実

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

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日本プロ野球名シーン
「忘れられないあの投球」
第1回 ヤクルト・伊藤智仁
「社会人ナンバーワン投手」のプロデビュー(1993年)

【神宮で見た伊藤智仁のプロデビュー戦】

 1993(平成5)年4月20日、この日、神宮球場で見た光景を生涯忘れることはないだろう。ヤクルトに入団したゴールデンルーキー・伊藤智仁のプロデビュー戦。相手は阪神だった。

1993年の新人王を獲得した伊藤智仁 photo by Sankei Visual1993年の新人王を獲得した伊藤智仁 photo by Sankei Visual 前年のドラフト会議では、"ゴジラ"と称され、日本中の注目を集めていた星稜高校・松井秀喜の指名をあえて回避。競合覚悟でヤクルトが強行指名したのが、「社会人ナンバーワン投手」と評価されていた三菱自動車京都の伊藤だった。

「松井指名」を推す球団フロントに対して、「どうしても伊藤を」と押し切ったのは当時の野村克也監督。ドラフト本番ではオリックス、広島からも1位指名を受けたが、見事にヤクルトが交渉権を獲得。伊藤はプロの道を歩み出した。

 そんな伊藤と、就職活動の真っ只中にあった筆者は、ともに「1970(昭和45)年生まれ」ということ以外に何も接点はなかった。もちろん面識もない。前年に開催されたバルセロナ五輪での伊藤の快投を、「いいピッチャーだなぁ。ヤクルトに入らないかなぁ」と、テレビ画面を眺めているだけだった。

 伊藤が華々しくデビューを飾った日は、どこかの企業の就職面接を受けていたと記憶している。楽しかった大学生活が終わりに差しかかっていること、お気楽だった青春時代の終焉が近づいていることを感じつつ、慣れないスーツを着て「自分はこんなに優れた人間です」「僕を採用すれば御社にこんなメリットがあります」と、白々しくアピールする日々に疲れを感じていた。

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