山田久志が引退を決意した衝撃弾。
清原和博はシンカーを完璧に捉えた

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

日本プロ野球名シーン
「忘れられないあの一打」
第8回 西武・清原和博
山田久志に引退を決意させた
バックスクリーン弾(1988年)

 若武者がベテランに引き際を悟らせた一打があった。そのホームランについて、引退した男と未来のある男が語り合う夜、その贅沢な空気を共有させてもらったことがある。

 あれは阪急ブレーブスで通算284勝を挙げたサブマリン、山田久志がユニフォームを脱いだ1988年、冬のことだった。

 日曜日の夜、上品な色合いのグレーのスーツを着こなした山田は、東京・渋谷のNHKのスタジオにいた。西武ライオンズの若きスラッガー、清原和博の到着を待っていたのである。その年の秋、現役を引退してNHK「サンデースポーツスペシャル」のキャスターとなった山田は、最初のスタジオゲストに清原を指名し、清原は出演を快諾した。そのため、この夜、生放送での二人の対談が実現することになっていたのだ。

入団1年目にも山田久志からホームランを放っている清原和博入団1年目にも山田久志からホームランを放っている清原和博 山田はプロ3年目のシーズンを終えたばかりの清原について「引退するまでの3年間、オレの活力源になってくれた存在だった」と話した。そして清原は「僕のことを子ども扱いしてきた最初のピッチャーだった」と言って、笑っていた。

 ふたりの初対決はその2年前に遡る。1986年4月12日、西宮球場。4-2と西武がリードした9回表、一死一、三塁で片平晋作の代打として、デビュー間もない18歳のルーキー、清原が登場した。その試合の映像がスタジオに流れる。山田は苦笑いを浮かべながら、「あの頃はやりにくかったなぁ」と振り返った。

「だって、こんな青二才に打たれたら、カッコ悪いもんな」

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