給料未払いで裁判、GM逃亡...無名の日本人投手が体験した海外リーグの現実 (4ページ目)

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi

 しかし、安井がプレーしたアメリカのセミプロリーグはいいかげんなもので、オーナーである町の複数の有力者から集めた金を持って、ベネズエラ人のGMが夜逃げするという事件も起きている。

 そんな流浪の野球人生を送る安井の次なるプレー先はニカラグアだった。ここも自ら履歴書を送って契約が決まったのだが、現地ではリーグ最初の日本人選手としてそれなりに話題になり、地元の新聞にも載った。

 安井が入団したのは、リーグきっての名門球団であるインディオス・デ・ボエル。しかし、いくら投手不足とはいえ、どこの馬の骨ともわからぬ日本人に多くを求めることはなかった。

 安井の立場はリザーブの外国人。つまり、外国人選手登録である助っ人に何かあった時の"補欠"で、試合中はベンチにも入れず、普段はスタンドで観戦というものだった。それでも、負け試合ではあるが数試合にリリーフとして登板し、防御率2点台とそれなりの結果を残した。

 ほとんどがリザーブだったが、給料は出たし、球団が用意してくれたホテルも快適だった。しかし、そんな名門球団での生活もあっけなく終わってしまう。

「いつも試合前の腹ごしらえを中華料理店でしていたんです。ある日、そこのウェイターが声をかけてきて、『おまえ、マサヤに行くんだよな』と。マサヤというのは、その日の試合相手のホームタウンなんです。だから『今日はうちのホームゲームで、マサヤがこっちに来るんだよ』と返したのですが、その彼は『いや、さっきテレビで言っていた。おまえはマサヤだ』って。何を言っているんだろうと球場に行ったら、ゲートにいる守衛から『おまえは今日から入れない』って。すると球団社長が出てきて、『トレードだ』って(笑)」

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