暴力を経験した元プロ野球選手が考案。「野球ドリル」で小学生を育てる (6ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

「殴られたことに対して、恨みもなければ、変な感情もありません。よく殴られたのは事実だけど(笑)。自分のことを振り返ってみると、暴力はムダだなと思います。僕の場合、まったく懲りてない。まったく意味がなかったということです。僕に必要だったのは、ロジックでした。なぜ怒られるのか、まわりから反感を買うのか、それがいかにマイナスなことかを、誰も教えてくれなかった」

 なぜ殴られるのかわからないから、同じことを繰り返す。そして、また殴られる......。

「野球は、基本的に他人に迷惑をかけちゃいけないスポーツです。単独プレーはダメで、
空気を読むセンスが求められる。なのに勝手なことばかりするから、よく殴られた。マイナスぶんを埋めるためにいい成績を残さなきゃいけなかったし、悪い時にはメンバーから外されたんです」

 それを田中に諭(さと)してくれる人がいなかった。

「指導者から評価されないと、チャンスが巡ってこない。田中聡はどういう選手なのか。
自分が思うような評価を得るためには、言動や服装も大事だったんですけど。今になってそう思います」

 田中はそのチーム独自のルール、選手が納得する基準づくりが必要だと考えている。

「うちのチームなら、10級から1級までの評価基準がある。トライアウトを受けて、合格すれば昇級していく。選手の起用方法でクレームがついたら、ピッチャーをやらせます。ボンボン打たれても問題ない。失敗したっていいじゃないですか。勝つことが目的じゃないから、何度でもチャレンジさせますよ。エラーして怒ることなんかありません。ほとんどは、技術不足が原因ですから」

 ピッチャーをやりたい子にはピッチャーを、バッティングをしたい子にはどんどん打たせる。成功と失敗を繰り返しながら、子どもたちは野球の面白さを知り、仲間への思いを強くする。ここにも「暴力なし」で野球をうまくする方法がある。

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(イースト・プレス)
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