西武・栗山巧が積み重ねた1806安打の価値。「1本打つのが大変」の真意 (3ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 この点をうまく利用しているのが、今季8勝を挙げているニール(西武)だ。ツーシーム(本人はシンカーと呼ぶが、一般的なツーシームのような特徴を持つ)とチェンジアップが同じ回転であることを活かし、打者を幻惑してゴロアウトの山を築いている。

 同じことが、上記の楽天戦で勝ち越しタイムリーを放った栗山にも言えるはずだ。近年、多くの投手がチェンジアップを投げるようになった一因は、打者にとって対応が難しい球種だからだ。

 栗山が言う。

「ヒットを打とうと、(相手守備陣形で)空いているところにしっかり打ち返そうとしました。シュートとチェンジアップは似ているので、打ちにいった途中で『あっ、チェンジアップ』となって、で、たまたま打てた。あのボールに見極めがついたので、引きつけて自分のポイントで......なんていうのは、自分にはない。そう言うバッターもいると思うけど、そういうのは自分にはなかなか無理なので」

 一般的に一、二塁の場面では、左打者は引っ張ってライト方向に打つのが、走者の進塁を考えると望ましい。宋家豪の投じたボールはコース的には外角だったが、引っ張れるスピードの球が来て、栗山はライト方向に打った。

「空いているところ」(=一、二塁間)に打とうという狙いがあり、卓越した選球眼でボールに対して照準を定め、自分のスイングをした。打席でやるべき仕事をした結果、「たまたま」ヒットになったということだろうか。

「そうそうそう。そういうことです」

177cm、85kgの栗山は、プロ野球選手として特別秀でたパワーやスピードを誇るわけではない。

 それでも、西武の歴史で誰より多くのヒットを打つことができたのは、若手の頃から続けてきた練習量とその質で、技術と選球眼を磨いてきたからだ。その裏には、どうすれば成功できるかと突き詰める思考力と、まだまだ上達したいという謙虚な気持ち、そして貪欲さがある。

 10年ぶりのリーグ優勝を目指した昨季、9月17日に行なわれたソフトバンク戦で、栗山は初回に先制満塁本塁打を放った。天王山の初戦という余計な力の入りやすい一戦で、普段の実力を発揮できる要因は何か。栗山が挙げたのは、予想を超えた答えだった。

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