八重樫幸雄が今ならわかる荒川博の仰天指導「左足が着く前に振れ!」 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

【「調子を取り戻すのに10年以上かかったよ(笑)」】

――いくら体力のある若手とはいえ、かなり過酷な練習量ですね。

八重樫 本拠地・神宮のケースだけじゃなくて、遠征先でも猛練習は続いていたから、本当に大変だったよね。当時の遠征は、たいてい和室の旅館なんだけど、広めの部屋に荒川さんに呼ばれて、パンツ一丁で打撃指導の始まり。いろいろ指導を受けたけど、今でも覚えているのは「左足が着く前に振れ!」って言われたことかな。

――右打者なので、左足を上げてタイミングを計るというのは理解できるのですが、その左足が着地する前にスイングするというのは、意味がわからないのですが......。

八重樫 ねっ、そうでしょう。僕らも当時、まったく理解できなかった(笑)。実際に左足を着地しないとスイングなんかできないんだから。それでも、自分なりに「着地前に振ろう」と意識して素振りをするんだけど、荒川さんにはいつも「まだ遅い!」って叱られっぱなし。当時はよくわからなかったけど、今なら意味もわかるけどね。

――僕にはまったく意味がわからないんですが、どういうことなんですか?

八重樫 「スピードボールに負けないためには、左足が着地する前にスイングを終えているくらいの意識を持っていないと差し込まれるよ」という意味だったんだと思いますね。でも、その説明が何もないまま「着地前に振れ」とだけしか言われていないので、当時はまったく意味がわからなかった。でも、僕らは若手だったので、「これも修行だ」と思いながら続けていたんだけどね。

――結局、八重樫さんにとって、「荒川道場」の成果はあったのですか?

八重樫 今思えば、「荒川道場」で厳しい練習をしたおかげで、ベテランになっても投手の球に力負けしないスイングができたのかな、とは思うよ。ただ、その当時は効果を実感できなかったなぁ。荒川さんの指導を受けながら試合に出て、指導通りに打って、ヒットが出ても打っている気がしないんですよ。「捉えた!」っていう実感がないまま、結果としてヒットになっているだけ。全然、実感がないまま打席に入る日々だったな。

 正直、せっかく「バッティングのコツをつかみかけた」と思っていたのに、その後、バッティングの調子はずっと上がらなかったから。でも、後に自分がコーチになってからは、ようやく荒川さんの言いたいこと、伝えたいことが理解できるようになって、自分が打撃コーチになるときには、とても役に立ったんだけどね。

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