井端弘和から見た「勝負の鬼」の原采配。「早めに手を打っている」

  • 寺崎江月●取材・文 text by Terasaki Egetsu
  • photo by Kyodo News

井端弘和「イバらの道の野球論」(7)

 5年ぶりのリーグ優勝を目指す巨人にとって、前半戦はこれ以上ない結果だった。交流戦も勝ち越して17もの貯金を作り首位を独走。早期にマジック点灯もあると思われていたが......。オールスター明けに急失速し、反対に調子を上げてきたDeNA、広島と首位を争う形になった。

 巨人で通算13シーズン目の指揮を執る原辰徳監督は、積極的に起用する選手を入れ替えるなど状況の打開を図っている。主力選手にケガ人も出る苦しい状況の中、これまでリーグ優勝7回、日本一3回を達成した指揮官の手腕に期待を寄せるファンも多いだろう。

 2013年に中日から巨人に移籍し、2014年のリーグ優勝に貢献するなど原監督の下で2シーズンをプレーした井端弘和は、現在の巨人、原采配をどう見ているのか。

5年ぶりのV奪還を目指す巨人の原監督5年ぶりのV奪還を目指す巨人の原監督──井端さんは現役時代、巨人に移籍してからの2年間(2014年、2015年)を原監督の下でプレーされましたが、どのような指揮官でしたか?

「普段は話しかけてくれることも多かったですし、すごく優しい方なんですけど、試合が始まった瞬間から人が変わります。"勝負の鬼"になるとでも言うんですかね。目の前の場面だけでなく、すごく先のことまで考えているように感じました。試合前のミーティングでは、細かい戦術よりも、心の持ちようなどを簡潔に話していたと記憶しています」

──今シーズンの采配についてはいかがですか? 

「『この時期までは、こうする』という意図が明確で、メリハリのある采配をしている印象がありますね。たとえばオールスター前までは、打たせていい場面でもバントをさせてみたり、一方で負けている試合では送りバントをしなかったり。オールスター後は厳しい戦いが続いていますが、より"勝負へのこだわり"が強くなっていると思います。シーズン後半は個人の成績があまり上下しないので、チームの勝ちを優先する姿勢が見えますし、選手たちもそれを理解してプレーしているはずです」

──7月には、主砲の岡本和真選手にバントをさせる場面もありましたね。

「そうですね。かといって、『後半戦は、チャンスの場面では絶対にバント』と決めているわけではありません。7月23日のヤクルト戦のサヨナラのチャンス(9回裏ノーアウト1、2塁)でもそうでした。代打で長打が少ない重信(慎之介)が出てきたので、バントで『犠牲フライでも1点』という場面を作るかと思いきや、強行させて重信がレフトオーバーのヒットを放ち、サヨナラ勝ちを収めましたよね。

 これは私の予想ですが、バントで1アウト2、3塁にした後に満塁策を取られることが頭にあったんじゃないでしょうか。クリーンナップの打者はそういう場面に慣れていますが、重信は6番の陽岱鋼の代打でしたから、その後に控える下位打線にはよりプレッシャーがかかる。それならば、足が速くダブルプレーのリスクが低い重信には、打たせるほうがサヨナラの確率が高いと判断したんじゃないかと。そのほかの要素や監督としての経験を総合的に考え、1球1球で作戦を変えられる発想力と決断力が、原監督の強みだと思います」

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る