PL学園伝説のコーチが明かす
「控えの主将だった平石洋介の覚悟」 (4ページ目)
「『俺がやらなアカン』って、あいつが腹を決めたのかもわかりませんね。試合に出ないほうがキツイわけやからね。出ていれば自分のプレーに集中できるけど、みんなを動かさなあかんわけやから。それが、18歳の頃から平石には培われているわけですよ」
清水が手に持っていたあがりを口に含み、PL学園時代に平石と格闘してきた日々を手繰り寄せるように、ふうっと息を吐く。
「これは、平石には言ってないですけど......」
そう呟き、清水が教え子に想いを馳せる。
「平石っていう人間が、僕のなかでどんどん大きくなっていったんですね。『腹決めてやれ。勝つも負けるも、お前の腹ひとつやで!』って、僕も滾々(こんこん)と説いてきたし、ふたりでいろんな話をしながらチームをつくってきて、いい形にできあがった時には、平石がすごく大きな存在になっていました」
PL学園の精神。清水の薫陶は、今の平石の骨格を形成している。
今年の開幕戦。昼間に清水の携帯電話が鳴った。「開幕の日やぞ!」。画面には、楽天の監督の名が映し出されていた。
「気合を入れてほしくて」
自分が認めた男の気概を受け取った清水は「楽天にとって大事な日に......」と溢れ出す感動を抑制し、声を張った。
「その気持ちがあれば十分や!」
気合いを注入した翌日。平石が監督として初勝利を飾った。この時は、携帯からメールで、祝辞とともに激励を贈った。
<おめでとう。常に選手に感謝やぞ。絶対に忘れんなよ>
ふじ清の店主の割烹着からは、楽天のTシャツが見える。試合も逐一チェックしていることは、会話をしていればすぐにわかる。
「今年の楽天は粘るでしょ。諦めんのですよ。嶋(基宏)なんかを見ていてもね、男をかけているでしょ。それはね、平石の指導力、色が出ているからです」
自嘲する強面の顔がほころぶ。そうかと思えば、すぐにPL学園OBが恐れおののく表情をつくり、藤井寺の寿司店から気力を発する。
「油断せんと、腹決めて戦ったもんは絶対に強いですから。平石が守りに入ったり、ちょっとでもそういう姿が見えたら言いますよ。『初心を忘れんな!』って」
つづく
(=敬称略)
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