移籍1年目で初のふたケタ勝利。榎田大樹はなぜ西武で開花したのか
阪神タイガースに2010年ドラフト1位で指名されてから8年――。今年32歳になった左腕投手の榎田大樹にとって、自身初めて達成したふたケタ勝利は「1回なくした目標」だった。
「チームは変わりましたけど、阪神でできなかったことがここ(西武)でできたのは、自分のプロ人生としてはよかったのかなと思います」
阪神から移籍した今季、11勝4敗という好成績を残した榎田大樹 人生は、先が見えないから苦しく、同時に面白い。今季開幕2週間前に阪神からトレードされたこの左腕が、10年ぶりの日本シリーズ出場を目指す埼玉西武ライオンズのクライマックスシリーズ(CS)突破のカギを握るひとりになるとは、誰が予想できただろうか。
榎田の野球人生が好転するきっかけは、トレード前にさかのぼる。昨年11月、阪神の矢野燿大二軍監督から動作解析の先生を紹介されたことが始まりだった。
「そこからいろいろできることをやろうと思って、歯の治療やいろんなことをやっていきました。(東京ガス時代の同期の)楽天の美馬(学)と一緒に練習していくなかで、『身体の使い方を教えてくれる先生がいるよ』と言ってもらえて。そこで身体を見てもらって、次の日にキャッチボールしたとき、すごく変わったというか。それを実感できたので、1月の自主トレで3日間でしたけど、練習に参加してみようかなと」
ソフトバンクの千賀滉大や石川柊太(しゅうた)が飛躍のきっかけを掴んだ、福岡県の鴻江(こうのえ)スポーツアカデミーの門を榎田も叩いた(関連記事『逆転優勝を狙うホークス。好調な千賀と石川を支えるトレーナーの教え』)。猫背型か、反り腰型かで身体の使い方を区別する鴻江寿治トレーナーの方法論は、榎田の常識を覆すものだった。
「今までは投げる際、『身体が突っ込むな』と教わることが多かったけど、逆に先生は『左ピッチャーは突っ込んでいい』と。左ピッチャーは結局、突っ込まないと投げられないので、『右半身で出ていきなさい』とよく言われます。今まで教わってきたことと全然違うので、『突っ込んでいいんだ』と思ったときに噛み合ったというか」
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