【イップスの深層】野球のプレーは、
どこまで「自動化」できるか?
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連載第16回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・土橋勝征(4)
(前回の記事はこちら)
今シーズンからヤクルトの一軍守備・走塁コーチに就任した土橋勝征 ボール、ボール、ボール、ボール......。ストライクが入らず、ボール球が続く投手を見て、スタンドの観客がつぶやく。「あいつ、イップスなんじゃねぇの?」と。
イップスという用語が野球界に知れ渡った今、こんな光景が日常的になりつつある。送球エラーが多い選手に対しても、「イップス」という言葉が使われることが多い。
そんな風潮が広がるなか、かつてスローイングに悩まされた土橋勝征(かつゆき/現・ヤクルトコーチ)は首をかしげながらこう言った。
「僕の場合は『イップス』というより、『送球難』という認識ですね。イップスと送球が悪いというのは、違うものだと思います」
「イップス=送球難」ではない――。土橋の言葉を理解できない読者がいてもおかしくはない。
そもそも「イップス」の定義とは、何なのだろうか。どこからどこまでを「イップス」と呼ぶべきなのだろうか。
イップスは原因不明、100パーセント確実に治る治療法はないと言われる。それでも、少しずつ研究は進んでいる。
スポーツトレーナーの石原心(しん/ハバナトレーナーズルーム恵比寿)は自身もイップス経験者で、大学時代から10年以上もイップスを研究してきた。石原は医師などの医療関係者と連携をとり、イップスを医学的に治そうと取り組んでいる。
そんな石原の著書『イップス――スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)には、イップスの定義と関連して、イメージしやすい言葉で解説されている。
〈イップスとは、何も考えずにできていた動作ができなくなってしまうこと〉
石原によると、イップスのキーワードは「自動化」にあるという。何も考えずに、自動的にできていたものが崩壊してしまう。それをイップスと定義づけているのだ。
もともと自動化できていない、すなわちもともとコントロールが悪い選手は「イップス」にはあたらない。自動化できていた投球動作が崩れた状態を「イップス」と呼ぶ。「自分の投げ方がわからなくなった」という感覚など、イップスの典型だろう。
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