「ライオンズ七不思議」、貧打の炭谷銀仁朗が3割バッターに変身の怪 (3ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 そうして現在まで1年以上、メディアの前で打撃について多くを語らない炭谷だが、実は彼の打撃にひと筋の光が差し込んだのは昨年初夏のことだった。交流戦の最中、試合前のティー打撃中に好感触を掴んだという。

「よくスーパーバッターたちは『バットに当ててからボールを乗せる』みたいな表現をするじゃないですか。僕はそれができないので、パチーンと当てたところでスイングを終わりにしたんです。最後まで振ろうとしたら余計な動きが入るし、それだけでもタイミングがズレるじゃないですか。けど、実際には振っているんですよ。あくまでイメージの話です」

 交流戦前の打率は.213だったが、セ・リーグとの対戦が終わるころには.231とし、7月中旬には.281まで上昇させる。その裏にあったのが、辻発彦監督による「手を柔らかく使え」というアドバイスだ。

「僕はヒッチしたらアカンと思っていたんです。いいバッターを見ても、トップからそのままパッと(バットが)出てくるじゃないですか。でも、監督は『手を動かしていい』と」

 バットを振り始める際にグリップを上下動させると、タイミングを取りにくくなったり、パワーを伝えにくくになったりするため、一般的に「ヒッチするのはよくない」とされる。

 しかし、王貞治やバリー・ボンズ、現在なら広島の丸佳浩など、ヒッチしながら高打率を残す打者もいる。炭谷は辻監督に固定概念を覆されことで、自分のタイミングで振れるようになった。

「とにかく左足を早く上げて、始動を早くする。その後に手を上げることで、上半身と下半身が連動します。僕の場合はヒッチすることで、上半身の開きを抑えることができる」

「ヒッチ=悪」という呪縛から解き放たれ、自分の間合いでスイングできるようになり、シーズンをまたいでも好感触が続いている。高校時代に「強打の捕手」だった炭谷は、いわゆるコンパクトなスイング(=バットを最短距離で出すこと)を身につけることで「軽打の捕手」となり、プロ入り前とは違う輝きを放つようになった。

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