これが代走屋の魂だ。鈴木尚広が明かす「ラストプレーの真実」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Jiji photo

 試合中もゲーム展開に目を配りながら、終盤に迎えるであろう自分の出番に備える。東京ドームのダッグアウト裏には、鈴木が調整できるように人工芝の走路が用意されていたほどだ。

 試合前、試合中を通じて9時間かけて準備をして、出番は一瞬。しかも、これだけ準備を重ねても出番がない日もあるのだ。

 ひとたび「代走・鈴木」がコールされれば、ジャイアンツ応援席からその日一番の大歓声が送られ、一挙手一投足を追いかけられる。もちろんファンの声援は大きなモチベーションになったが、鈴木は年々自分の心にずしりとのしかかるものを感じていた。

「足にスランプはない」という言葉を耳にすることがある。しかし、その言葉に鈴木は懐疑的な見方をしている。

「打つこと、投げること、走ること、何をやっても『感覚のズレ』は生じます。ズレの原因は疲労であったり、メンタルであったり、さまざまあるでしょう。『足にスランプはない』というのは、『全力疾走はできる』という意味ならわかりますけど、どのレベルを指しているのかな? と思いますね」

 打者なら10打席立って3本打てば「一流」と言われる。先発投手なら6イニングを投げて自責点を3以内に収めれば「クオリティ・スタート」と評価される。しかし、鈴木の仕事は「100パーセント成功して当たり前」という目で見られてしまう。鈴木は「想像以上にプレッシャーはありました」と明かす。

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