かつての剛腕3人の光と影。トライアウトで見た「帝京魂」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 いい時は手がつけられないようなピッチングをするが、悪い時は別人のようにガタガタと崩れてしまう。帝京高でもプロでも、ずっとその繰り返しだった。プロ8年間の通算成績は、68試合に登板して2勝14敗、防御率5.37。

 トライアウトでの結果は、打者3人に対して被安打0、奪三振2。成績だけ見れば上々だが、大田は納得がいかなかったのだろう。登板後、着替えを終えると足早に駐車場へと向かった。

「体はどこも悪くありません。でも、なんで悪くなったのかはわかりません」

 この日、大田の投げた最高スピードは143キロ。「ストレートを見てほしかったので多めに投げました」とは言うものの、最もスピードが出ていたプロ3〜4年目に比べれば、10キロほど遅い。

「プロは厳しい世界でした。レベルが高いので、自分の能力を維持できないと活躍できません。自分はどこかを痛めたとかはなくて、体は元気なんですけど……。年々、変化球でもカウントを取れなくなったような気がします」

 年齢を重ねるとともに、感覚やフォームが微妙に変わっていくのかと聞いてみたが、大田は「わかりません」と首をかしげるだけだった。野球人生の背水の陣を満足のいかないままに終えたばかりで、コメントできる余裕がないのは無理もない。

 唯一、表情が明るくなったのは、この日の捕手役をDeNAの藤田和男ファームバッテリーコーチ補佐が務めていたことについて聞いた時だ。

「藤田さんは自分のいいボールを知っているし、良さを知っているので、投げやすかったです」

 潜在能力からすれば、まだまだ「こんなものではない」と思わせる大器。大田が再び前を向いて、思う存分に腕を振れるようなオファーが届くことを願いたい。

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