巨人番が明かす。瀕死のチームを蘇らせた「あのゲーム」 (3ページ目)

  • 増田和史(日刊ゲンダイ)●文 text by Masuda Kazufumi
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 故障の影響で本来のプレイができず、最後に響いてしまった選手がもうひとりいる。チームトップの打率.297、13本塁打、62打点でチームを牽引した外野の要でもある長野久義だ。

 8月21日のヤクルト戦(神宮球場)。同点の9回裏、一死一、二塁で右中間の打球を好捕した際に右膝の関節を挫傷。球団関係者は「全治1カ月以上」と漏らす重症だったが、優勝争いが佳境だったため、出場選手登録を抹消しなかった。その後も一軍に同行したまま9月2日の広島戦(長野)で先発復帰。痛み止めを服用しながら出場を続けた。

 優勝を争った広島に最終的に引導を渡すことになった9月15日からの広島3連戦(マツダスタジアム)では全力疾走もした。長野の打球を併殺にしようと、二塁ベースに入った広島の菊池は驚いたという。

「まだ大丈夫だろうと思って一塁ベースを見たら、もう手前まできていた。あのケガで全力疾走するなんて……。あの人は人間じゃない」

 相手チームが驚愕する裏で長野も苦しんでいた。この3連戦中、足を引きずりながらこう漏らしていた。

「膝、マジで痛いっす。休んで治した方がいいのかなとも思うけど、大事な時ですから」

 CSでも全試合先発で出場したものの、4試合で打率2割とふるわなかった。右肘と右膝をダブル手術した長野は、来季の開幕に間に合うか微妙な状況。強行出場の代償はあまりにも大きかった。

 故障者が続出し、額面通りの活躍をした選手は皆無。「原監督がMVP」と采配を賛辞する声は多い。だが、今季ほど勝ち方を知る選手の総合力が際立った年はなかったのではないか。選手会長の村田はリーグ優勝直前にこう話している。

「3割打者がいないのに逆にすごい。今年は悩んでいる選手が多かったのに、みんなここぞの集中力があった。相手にずっと抑えられていて、一度のチャンスで何点か取って勝つ試合が多かった。今年はチーム力、みんなで勝った年だと思う」

 巨人の脆さ、危うさを露呈したシーズンだったことは間違いない。それでも苦しみながらもリーグ3連覇を達成した陰には、選手ひとりひとりがやるべきことを理解し、着実に実行したからにほかならない。その転機となったのが、5月21日の西武戦だった。

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