2014.12.12

【プロ野球】
東野峻「子どもが物心つくまでユニフォームは脱げない」

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • 五十嵐和博●写真 photo by Igarashi Kazuhiro

12月特集 アスリート、現役続行と引退の波間 (6)

 もう終わりにしようと思っていた――10月28日、東野峻はオリックスから戦力外通告を受けた。2012年オフに巨人からオリックスにトレードされて2シーズン、挙げた勝ち星はひとつのみ。今年は一軍での登板はなく、ほとんどをファームで過ごしていた。だからクビは覚悟していた。球団事務所から家へ帰ると、東野は妻に告げた。

「もう野球辞めていいかな」

巨人時代の2010年に13勝をマークした東野峻

 普段は仕事のことに一切口を挟まない妻は静かにこう言ったという。

「しばらくは(貯金で)食べていけるから、あなたの好きなようにすればいいよ」

 東野は引退を覚悟した心境を次のように語る。

「プロで10年間やれたので、区切りをつけようと思っていたんです。それと、自分が独身だったらすぐにトライアウトを受けようと思ったのでしょうが、家族がある身ですし、早いうちに社会人としてスタートを切った方がリスクは少ないと考えていたんです」

 東野は、妻と4歳の長男、2歳の長女、そしてまもなく生まれる第3子のため、プロ野球の世界から身を引くことを決めた。これからの長い人生を考えれば仕方のない選択ではあるが、これに激しく反論した人物がいた。巨人時代の同僚であり、トレード後も親交のある内海哲也である。

「内海さんに連絡をして引退するよと告げたら、『そんなの絶対に許さんぞ!』と言うんです。『トライアウト受けてダメだったら辞めろよ。受けもしないのに辞めるのは逃げでしかない。もし受けないで辞めたら、今後、もう付き合わない』って。他の人にもそう言われました。考えてみれば自分の人生で今まで逃げたって経験がないんですよ」

 東野に迷いが生じた。このまま逃げるように辞めてしまって後悔はないのか。内海が言うようにトライアウトを受けるべきではないのか。東野は悩んだが、それほど猶予が残されていたわけではなかった。トライアウトの参加受付締め切りは30日に迫っている。考える時間は、わずか2日間しかない。