敗れて強し。日本ハムが貫いた奔放かつ緻密な野球 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by NIkkan sports

 下剋上を目指すチャレンジャーだからこそ、積極的に守る。

 恐れず、怯まず、選手の実績や名前ではなく、今の力を見極めて選手を戦場に送り出し、攻めていく。

 しかし一度だけ、ファイターズが消極的になってしまったシーンがあった。それが、第4戦の陽岱鋼のアプローチだ。

 1対4とリードを許し、迎えた5回表のファイターズの攻撃。先頭の大野奨太が歩き、トップの西川遥輝が左中間へヒットで続く。2番の中島卓也がきっちり送りバントを決めて、ワンアウト2、3塁。ここで、バッターボックスには陽岱鋼。その前の試合でようやく復調へのきっかけをつかんだかと思いきや、この試合はホークスの先発、中田賢一の荒れ球に苦しみ、ここまで2打席連続で三振を喫していた。

 この局面で、ホークスは前進守備を敷かなかった。セカンドの明石、ショートの今宮健太が下がって守ったのだ。つまり、1点はどうぞ、という守備隊形だ。これぞ、強者の論理である。

 しかし下剋上を狙い、君主の寝首を掻こうかというファイターズにとっては、これをホークスのスキにしなければならなかったはずだ。

 2勝2敗の第4戦、5回表、点差は3点。もしホークスがこの場面、1点に執着し、1点もやらないと前進守備を敷いてきたら、逆に陽は何が何でも間を抜いてやると積極的に振りにいったかもしれない。ところが、ホークスが引いて守った形に合わせるように、陽は中田の変化球をショートに転がした。今宮は三塁ランナーのホームインを気に留めることなく、一塁へ送球する。ファイターズは1点を返して2対4とはしたが、ここから流れは滞り、結局、ファイターズは2対5で敗れてホークスに王手をかけられた。

 悪夢の逆転サヨナラ負けを喫しながら、連勝してアドバンテージを含む2勝2敗のタイに追いついた、第4戦。勝った方が王手をかける一戦で、チャレンジし続けたファイターズは、逆に初めてスキを見せてしまったのかもしれない。ビハインドの場面でこそ、より攻め、動き、仕掛け、壮大な下剋上へのシナリオを描いていた指揮官が、ホークスが垣間見せたこの一瞬のスキだけを突けなかったことが、あまりにもったいなかった。

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