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楽天の「考えられない継投」を可能にした美馬学の好投 (2ページ目)

  • 阿部珠樹●構成 text by Abe Tamaki
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 第7戦の立ち上がり、先頭打者の長野久義に投じたシュートが死球になってしまった。先頭打者に死球を与えると、その後、同じ球種を使いづらくなるものです。しかし、美馬はその後もシュートを使い続けました。内角を大胆に使ってくる姿勢にジャイアンツ打線は受け身になったと思います。

 それに捕手の嶋基宏のリードも見事でした。この試合に限らず、今回のシリーズでの嶋は内角を大胆に攻めていましたが、もうひとつ目を見張ったのが高低の使い方です。タテの変化をうまく使い、左右高低でジャイアンツ打線を揺さぶりました。

 楽天の右投手はスライダーを武器にする投手が多いですが、美馬は入団した時からタテに割れるカーブを持っていました。日本シリーズではこのカーブをカウント球にしたり、決め球に使ったり、変幻自在のピッチングでジャイアンツを翻弄しました。決して球威があるピッチャーではありませんが、緩急をうまく使ったことでストレートも生きた。美馬のストレートに振り遅れる打者が多かったのはそのためです。

 この試合だけでなく、美馬の好投はシリーズ全体の方向も決めたと思います。特に、第3戦での勝利は1勝以上の価値がありました。あの試合に勝ったことで仙台に帰れることが決まりました。たとえ、東京ドームでの第4戦、第5戦に連敗しても、仙台に帰って連勝すれば日本一になれる。それに何より大きかったのは、則本をリリーフに回すことを可能にしたことです。もし第3戦を落としていたら、第5戦の先発に則本を使わなければならず、手薄なリリーフ陣をカバーする投手がいなくなる。実際、則本をリリーフ待機させたのは第4戦から。則本がリリーフに回ったことで、ジャイアンツにプレッシャーを与えたことは間違いありません。それだけ第3戦で美馬が挙げた1勝は大きかったと思います。

 第7戦に話を戻しますと、6回で美馬を降板させましたが、正直、この時は驚きました。7回のジャイアンツ打線が下位に回ることを考えれば、もう1イニング行くだろうと見ていたからです。でも、星野監督はスパッと則本に代えた。ただ、逃げ切りを焦った継投ではありません。絶対に後手に回らず、先手をとって相手をあきらめさせる「攻めの継投」だったと言えます。それに球場の盛り上がりも考えたのでしょう。則本がマウンドに上がれば、ファンのボルテージも最高潮に達する。その声援を背にジャイアンツを圧倒しようとした。最後に田中をマウンドに上げたのも同じ理由でしょう。

 星野監督は自分でも「考えられない継投」と言っていましたが、前日160球を投げた田中を連投させるなど、批判がないわけではありません。もちろん、そうした声が上がることはわかっていたと思います。それでも最後まで勝つことだけにこだわった。そうした「攻めの姿勢」「攻めの継投」がジャイアンツ打線を封じ、楽天に日本一をもたらしたのだと思います。

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